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2023.03.21

人生100年時代。わたしたちの人生は、“より長く”なっていくが、同時に、“よりよく”なっていくのだろうか。

3月20日は、国連の定めた国際幸福デー。
毎年、この日には、国連から世界の幸福度ランキングが発表されています。
日本は、世界でも最も長寿の国の一つですが、幸福度では世界で54位(2022年度)と、決して高くありません。それどころか、先進国の中では低いレベルにあります。
より長くなった人生を、よりよいものにしていくために、これからの私たちはどのように考え、行動していけばよいのでしょうか。

要約すると

  • 調査によると、「100歳まで生きたくない」人はまだまだ多い。

  • 人生は後半になるほど、幸せになっていく。

  • 「健康」よりも、「幸福」が「100歳まで生きたい」につながる。

  • 「歳をとること」で幸福度は、2,3割ベースアップする。

人生100年時代に「うみだされた20年」を、どう生きるのか

2016年にリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』の中で、「人生100年時代」を提唱しました。その本には、2007年生まれの子どもの半数が107歳まで生きうる時代がくること、平均寿命世界1位の国をグラフ化すると、寿命が2年ごとに平均2~3年のペースで上昇していることが、書かれています。

厚生労働白書を見ると、実際に日本人の平均寿命は着実に伸びていて、2040年に女性の平均寿命は90歳弱に届くといわれています。

●日本人の平均寿命の推移  : 令和2年版厚生労働白書より

https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-02-01.html

これまでの「人生80年時代」が、「100年時代」になっていくと、人生の中に、新しい20年がうみ出されることになります。この「うみだされた20年」をどのようにすごすのか、それが人生100年時代を迎える上で、大きな論点になるのではないでしょうか。

今、『LIFE SIFT』の発表から6年が経ちました。2017年には、政府で「人生100年時代構想会議」が発足し、人生100年時代の経済・社会について、教育や雇用、社会保険をテーマに議論が進められました。

政治や社会のレベルでは、人生100年時代への準備は少しずつ進められているようです。一方、生活者個人のレベルでは、どのような準備が進められているのでしょうか? 

未だに、7割の人は、100歳まで生きたくない

これから医学とテクノロジーがさらに進化して人生100年時代が到来すると、たとえ望んでいなくとも長生きせざるを得ない社会になっていきます。

しかし、私たちが2022年に実施した調査では、7割の人は「100歳まで生きたくない」と考えていることが、わかりました。

●生活者の100年生活意向

ここから、人類の希望の一つであったはずの「長寿」が、決して人々から望まれてはいないことがうかがえます。老後2000万円問題などのお金の不安、健康の不安が大きく影響を与えているのかもしれません。自分が「100歳まで生きる」ということがイメージできないのかもしれません。

私は、この状況を課題として捉えています。

人によって生き方が多様であるのは当たり前ですし、私自身「自分らしく生きられなくなったら生きていても仕方がない」と考えていた時期もありました。周りの人に聞いてみても、アンケートの結果と同じく、「100までは生きたいと思わない」と答える方の方が多いようでした。

しかし、現実として、「100歳まで生きたいと思わない」人も、(たとえ100歳までは生きないとしても)長生きしてしまう可能性は高い。そんな「長生きせざるを得ない時代」の中で、「長生きしたくない」と後ろ向きな気持ちで生きるのは、おもしろくないのではないでしょうか。後ろ向きな人が増えていくと、日本の社会全体が後ろ向きな社会になってしまいます。

せっかく長生きするのであれば、前向きに、希望をもって生きていく人を増やしていきたい。

超高齢化社会の日本を、前向きな100年生活者の社会にしたい。そのように考えています。

人生は後半になるほど、幸せになっていく

実際に、長生きすることは、そんなにネガティブなことなのでしょうか。

こちらのグラフは、幸福度について年齢別に見た調査のデータになります。これを見ると、幸福度は20代から、歳とともに下がって50代に底をうち、そこから上がっていく、U字のカーブを描いていることがわかります。

つまり、歳をとると、平均的に「幸福度」は高まっていく。特に、70代、80代は人生の中で最も幸福な時期だといえます。

●年代別 幸福度

この傾向は、世界的にも見られています。

2020年に全米経済研究所は、世界132カ国における幸福感と年齢の関係を調べました。その発表された論文によると、すべての国で幸福感の度合いは中年層が最も低い「U字カーブ」を描いているとわかりました。(注1) 論文をまとめた米ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授は「賃金の多寡や寿命の長さとは無関係に、幸福度はU字カーブを描く」と言っています。人生における幸福感が最も薄れるのは先進国で47.2歳、発展途上国で48.2歳となりました。

「健康」よりも、「幸福」が「100歳まで生きたい」につながっている

同じように、先ほどの「100歳まで生きたいと思いますか」という質問を年齢別にみてみると、同様に、年齢とともに下がり、60代で底をうち、そこからあがっていくU字カーブになります。歳をとると、「100歳まで生きたい」という気持ちも、幸福度同様に上がっていくということです。

●年齢別 100年生活意向

ここで、幸福度は50代、100歳まで生きたいは60代と、底の位置がずれているのは、定年後のお金不安が60代までは影響しているためではないかと推察しています。

下のグラフは、幸福度別、健康状況別に、「100歳まで生きたい人」の比率を見たものです。幸福度の高い人ほど「100歳まで生きたい」と感じやすいということがわかります。

●幸福度別 100年生活意向

その一方で、健康上の問題があってもなくても、ほとんど「100歳まで生きたい」に影響しないこともわかりました。

●健康問題別 100年生活意向

ここから言えるのは、「100歳まで生きたい」には、「健康」よりも「幸福」が影響している、ということです。「健康」を身体、「幸福」を心と考えると、身体よりも心が「100歳まで生きたい」に影響しているといえるかもしれません。

「歳をとること」で幸福度は、2,3割ベースアップする

先ほど見たように、実際には、歳をとるほど幸福度は高まっていきます。

人生は多様で、よいことも悪いことも含まれています。しかし、それらをまとめて平均としてみると50代から70代の20年の間に、幸福度は3割も高まるのです。つまり、私やみなさんが50代以下であれば、70歳になると、幸福感が2,3割高まる可能性が高いということです。

歳をとることは、幸せのベースアップの恩恵を受けることと言えるでしょう。

「歳をとること」に対する、マインドをシフトする

みなさんは、なんとなく歳をとると身体が衰え、幸福度も下がっていくイメージを持っているのではないでしょうか。今の「100歳まで生きたい」が低いことの背景には、「歳をとること」への「漠然としたネガティブイメージ」が影響しているように感じています。 

50代までの「100年人生前期の人」は、「100年人生の後期は幸福度が高い」という実態を知らず、100年人生後期を、実際以上にネガティブと思い込んでしまっているということです。

ほとんどの人は「過去の経験や知識」に基づいてしか考えることができません。50代までの人は、それまでの経験に基づき、自分の人生の後半を“下り坂”に向かう時期だとみなしているのではないでしょうか。しかし、実際には70代から80代までは幸せの“上り坂”になっています。

歳をとることで、体の機能は確実に低下します。認知機能も衰えていく部分があるでしょう。しかし、そこでは50歳までの人が経験していない、新しい経験が生まれていて、それによってあたらしい幸せの基準がうみだされているのではないでしょうか。

私たちは、自分の人生の後半のことを、「知っているつもり」でいるけれど、本当のことはわかっていないのかもしれません。歳をとることは、新しい自分になること、とも言えそうです。

50代よりも60代、60代よりも70代と、幸福度は、歳とともに高まっていく。この実態を知り、その意味を想像することで、私たちは、より前向きに、より楽観的な態度で、将来の100年人生に向き合えるようになると、私は考えています。

私たちは、100年人生という「身体的な変化」に合わせて、100年人生に向かう「精神(マインド)もシフトさせていくべき」なのです。

「100年生活の事実」を通じて、前向きな気持ちを生み出す

また、この調査では「100歳まで生きたい」人の特徴がいくつか発見されています。

たとえば、スマホを使いこなしていない人と比べると、使いこなしている人の方が「100歳まで生きたい」人が多い傾向がみられました。デジタルへの取り組みをサポートすることが、「100年生きたい」気持ちを生み出すことにつながる可能性が見てとれます。

●スマホの使いこなし度別 100年生活意向

他にも、「100歳まで生きたい」人は体感年齢がやや若めで、恋の引退年齢も遅くなる傾向がみられました。「歳相応」という思い込みから、より自由になっている様子がうかがえます。

●100年生活意向別 年齢イメージ

日本には、既に100年生活を前向きに生きる生活者がたくさんいます。

私たちは、人生100年時代をよりよい社会にし、よりよい生活にしていくためのヒントは、この「100年生活の事実」から得ることができる、と考えています。​

「知っているつもり」にとらわれることなく、100年生活の事実を見つめ、想像する。私たちは、ここから研究を進めていきたいと思います。​

〔100年生活をよりよいものにするヒント〕

✓歳をとることは、幸福度のベースアップを得ること。

マインド・シフトして、100年生活を前向きに考えよう。

✓歳をとることは、新しい自分になること。

人生後半の自分を「知っているつもり」にならない。

✓「歳相応」という思い込みにとらわれないで、興味があることに取組む


注1: https://www.nber.org/papers/w26641



調査概要

■調査目的 :100年生活の実態について把握する

■調査手法 :インタネットモニター調査

■調査日時 :2022年10月

■調査対象者 :20代~80代以上の男女 2800名 

■調査会社 :株式会社アスマーク

画像素材:PIXTA

プロフィール
副所長
田中 卓
95年博報堂入社。21年から、Hakuhodo DY MATRIXに在籍。100年生活の「Well-being≒満たされた暮らし」のモデルをつくることを目指し、業務に取り組む。共著に『マーケティングリサーチ』がある。