2024.03.18

日本初開催「ぼーっとする大会」が話題。

~何もしない、と幸せの関係性~

タイパ重視の生活はウェルビーイングなのか

日々、忙しく時間に追われている現代人。「時間対効果」を指す「タイパ」(タイムパフォーマンス)という言葉が日常的に使われるようになるなど、あらゆることに効率化が求められています。

タイパ重視の生活は、限られた時間でたくさんの情報に触れられたり、体験ができたりといったメリットがあります。一方で、常に頭や体を動かし続けてしまうと、心身に疲れが出ることも考えられます。ウェルビーイングな生活を送るためには、私たちの暮らしに「適度な休息」を取り入れることが大切なのかもしれません。

そんななか、2023年11月3日「ぼーっとする大会」が国内で初開催され、大きな反響を呼びました。いまなぜ「ぼーっとすること」が注目を集めているのか。TOKYOぼーっとする大会実行委員会の古井敬人さんに話を聞き、ぼーっとすることとウェルビーイングの関係性を紐解きます。

<回答者プロフィール>古井敬人さん

株式会社VIS代表取締役社長。2001年生まれ(現22歳)千葉県出身、東京都在住。学生企業を果たし、独立後初の取り組みとして韓国発のぼーっとする大会を開催。活動内容としてはプロデューサーとして事業や表現活動に携わる。

いかにぼーっとしているかを競う大会

「ぼーっとする大会」は、もともと韓国から始まり、世界6ヵ国で開催された国際大会。日本初開催となった今回は、虎ノ門ヒルズ オーバル広場に100名以上の参加者が集まりました。

ぼーっとする大会当日の様子

大会のルールは、90分間ぼーっとするだけ。ただし、スマホや時計を見る、居眠りをすることは禁止です。一番ぼーっとできていた人は、大会後に運営チームから表彰されます。

「審査基準は二つ。一つ目は、視覚的に見てぼーっとする芸術性(表情やコスチューム)があるかをオーディエンスに投票をしてもらい票を集めること。二つ目は、安定した心拍数を保っていること。大会では、この二つを満たしている状態を『ぼーっとする』と定義しています」(古井さん)

いかにぼーっとしているかを競うというユニークな取り組み。韓国で開催された大会を見たときに「忙しくしている現代人にとって、ぼーっとする時間が必要だ」と感じたことから、日本での開催を目指したそうです。

また、今大会では「さまざまな職業の人に、ぼーっとすることの大切さを知ってほしい」という思いから、参加者それぞれの職業を視覚的に分かりやすく、面白く伝えるために「職業を表すコスチューム」を着るというルールも設けられていました。

「いろいろな職業の人に参加してもらい、ぼーっとする集団を作りだしたいと思ったんです。東京の真ん中で、あえて競技としてぼーっとすることで、都会で働く人と何もしない行為とのコントラストを大きく演出する狙いがありました」

ぼーっとするためのポイントは「安心感」

今回は競技として行われたものの、ぼーっとする時間というものは、日常の中では無意識に行われる行為のようにも感じます。そのため「ぼーっとしたくても、できない」という方もいるのではないでしょうか。そこで能動的にぼーっとするためのコツについても聞いてみました。

「考え方を変えてみるといいかもしれません。『ぼーっとする』とは言い換えると『何もしていない』ということ。何もしない時間を作ればいいだけなんです。

『ぼーっとしたくても、できない人』というのは、おそらく『ぼーっとできないと思い込んでいる人』なのではないかなと思います。その枷を外してあげるのが大事です。例えば、お風呂で湯船に浸かる時間など、日常の中のたった5分間だけでもぼーっとする時間を取り入れると、肉体の疲労回復だけでなく、心の休息も行われ、生活の質が上がると思いますよ」(古井さん)

確かに「何もしない」だけと考えると、一気にハードルが下がり、日常の中にも取り入れやすくなりました。それでは、より現実的に実践していくためには、どんな環境作りをすればいいのでしょうか。古井さんによると、ポイントは「安心感」なのだそうです。

人間は集団の中で周りに合わせたり、影響を受けたりする生き物です。そのため、大会の環境づくりでは『安心感』を意識しました。無音の開会式、暖かい陽のあたる場所、芝生の上など、みんなが揃ってぼーっとできる空間を目指しました」(古井さん)

何もしない、ぼーっとする時間に自然に没頭するためには、静かな場所や日のあたる暖かい場所が適しているのかもしれません。

ぼーっとすることの価値

これまでぼーっとするという行為は、あまりポジティブに語られてこなかったように思います。「何もしていない」ことにどこか後ろめたさを感じてしまうのは、現代が情報やモノに溢れていて、余白が少なくなっているからでしょう。ぼーっとすることで、情報やモノに溢れた世界から自分を切り離す。そんな時間が、私たちには必要なのかもしれません。

「現代においてぼーっとすることで得られる効果は、心の休息的概念が強くあると感じます。ぼーっとすることで情報とモノに溢れた世界から離れる時間的余白を作ることが、自分の働き方や生き方を見直すために効果的だと考えています」(古井さん)

古井さんは「大会を開催してみてぼーっとすることは、本来誰もが簡単に行えることのはずなのに、現代においてはとても難しい」と感じたそうです。

しかし、日常の中でぼーっとする時間を作ることは、私たちのウェルビーイングにも繋がると言います。

「そもそも、『ぼーっとできる時間や環境があること』こそが幸せなのではないかと思うんです。不安や問題を抱えているとき、人はなかなかぼーっとすることはできないですよね。それならば、逆転の発想として先にぼーっとする心理状態を作り上げてしまう。いつでもぼーっとできるようにする、その先に幸せでいられる状態があるのではないでしょうか」(古井さん)

あなたもできる 「何もしない」が幸せの近道

忙しく生きるなかで、少しずつ失われていくぼーっとする時間。何もせずに、ただぼーっとする時間には、その先の未来へと繋がる豊かな時間の使い方があるように感じます。

実際に「ぼーっとする大会」に参加した方からは「初めての体験で、忙しく生きる日常から考えると、とても貴重な時間だった」というコメントを多くもらったそうです。

ぜひ、みなさんも日常の中でぼーっとしてみてください。意識的に何もしない時間を作り、ぼーっとする時間が、自分自身のウェルビーイングについて考えるヒントになるでしょう。

(執筆:早川大輝/編集:ノオト)

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