2023.07.20

20年間の追跡調査でわかった「幸せが伝播」する理由

幸せの伝播も「遠くの親戚より近くの他人」
類は友を呼ぶ。気の合う者同士や似た者同士はおのずと集まる、というこのことわざは、どうやら「幸せ」にも当てはまるようです。

カリフォルニア大学のジェームズ・H・ファウラーとハーバード大学のニコラス・A・クリスタキスが2008年にまとめた「社会的ネットワークにおける幸福の動的拡散(Dynamic spread of happiness in a large social network)」という論文では、幸せは人から人へ伝播していくとしています。どのようなプロセスで“幸せの伝播”が起こるのか、論文をもとに考察します。

要約すると

  • 個人の幸せは他者に伝播する

  • “遠くの親戚より近くの他人”のほうが伝播しやすい

  • 友人の友人の友人まで。幸せは「3次のルール」で伝播する

物理的な距離が近い「友人」や「隣人」に、幸せは伝播しやすい

この論文は、1984年から「Framingham Heart Study」という追跡疫学調査に参加した4,739名の20年間にわたる調査データを解析しています。

まず注目したのは、個人の幸福が、どんな人に影響を与えるかです。調査対象となる「他者」としては配偶者、友人、隣人、同僚などが挙げられていますが、影響が大きかったのは「友人」と「隣人」でした。

たとえば、対象者の1マイル(約1.6km)以内に住む「近所の友人」が幸せになると、対象者が幸せになる確率は25%増すのに対し、1マイル以上離れた場所に住む「遠くの友人」は、対象者に大きな影響を与えませんでした。

また、隣人が幸福になると、対象者の幸福度は34%向上しましたが、同じブロック(25m以内)に住む隣人では、同じような効果は得られなかったのです。 

同居している配偶者の場合、対象者の相手が幸福になると、対象者自身が幸福を感じる確率は8%増えましたが、同居していない場合は伝播の効果は表れませんでした。同様に、1マイル以内に住む兄弟姉妹が幸福になると、ほかの兄弟姉妹が幸福になる確率が14%増加するのに対し、遠方の兄弟姉妹への影響は見られませんでした。 

つまり、幸福の伝播は、物理的な距離と相手との関係性よって違うというのです。 

さらに研究では、配偶者や血縁関係にくらべて隣人で高いスコアが出たのは、「幸せの伝播が社会的に深いつながりよりも、社会生活で接触する頻度のほうに大きく影響される可能性」(Fowler& Christakis、2008)があると示唆しています。“遠くの親戚より近くの他人”、ということでしょう。 

幸せは「友だちの友だちの友だち」まで伝わる

個人の幸福は、どこまで伝播していくのでしょうか。調査結果によると、「3次の隔たりまでの集団(たとえば、友人の友人の友人)に限定される」(Fowler& Christakis、2008)としています。 

また、時間の経過も、幸福の伝播力と無関係ではありません。友人が過去半年内に幸福になった場合、対象者の45%が幸福を感じやすくなり、過去1年以内に期間を延ばすと、35%に減少しました。幸せにも賞味期限があるのか、伝播力もいつまでも続くわけではなさそうです。   

性別に関しては、異性よりも、同性のほうが伝播しやすいという結果に。同性のほうが感情のシグナルを共有しやすい傾向は、あるのかもしれません。 

個人のウェルビーイングは、公共のウェルビーイング

論文では、幸福が伝播するメカニズムまでは特定できないとしたうえで、以下のような可能性を示しています。  

  1. 幸福な人は、自分の幸運を分かち合っている(ex. 他者に対して実際的に役に立ったり、金銭的に寛大になったりすることによって) 

  2. 幸福な人は、他者に対する行動が変わる(ex. より親切になる、敵意が薄れる)

  3. 幸福な人に囲まれていると生物学的に良い影響を受けるという、精神神経のメカニズムがある 

ファウラーとクリスタキスの2人は、2007年と2008年に発表した論文において、幸福と同様に、肥満や喫煙も「3次の隔たり」まで伝播することを解明していました。このことからも今回の発見は、「伝播の3次ルール」がうつ病、不安、孤独、飲酒、食習慣など、さまざまな感情や活動にも当てはまると言えそうだと結論付けています。 

1人が幸せになれば、その友人の友人まで幸せが伝播する。「ある人の健康やウェルビーイングは他者の健康やウェルビーイングに影響を与え」(Fowler& Christakis、2008)ながら連鎖的に広がっていくのであるなら、「個人のウェルビーイング」が「公共のウェルビーイング」につながるポテンシャルを持っているということになります。皆さんも幸せな体験をした際は、一人でかみしめるだけでなく、近くの友人や隣人に伝えてみては? 

引用論文:James H Fowler, Nicholas A Christakis: Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study(2008、https://doi.org/10.1136/bmj.a2338 

画像素材:PIXTA

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