外向きの韓国、内向きの日本。化粧行動のスタート地点が違う
日本の女性は韓国の女性よりも、化粧を楽しみ、化粧の満足感を高い傾向
日本の女性の幸福感にポジティブに働いていたのはアイメイク
儒教の教えが広く浸透している韓国では、「『こころの綺麗な人は顔も美しい』といわれるように、『形の美=内面美』という図式がある」(金・大坊、2011)そうです。そのため、お化粧はあくまでも“他者から美しいと評価されるための手段”として捉えられている傾向が強く、外向き行動と言えそうです。
韓国で美容整形手術が多用されるのも、美しくあることが善とされ、他人から見て美しい自分を保つためにはあらゆる手段を用いるべきという価値観によるところが大きいのかもしれません。論文では「ファッションと同様に、美容整形手術も自己を表現する手段ではなく、大衆に合わせる行為として取り入れられている」(金・大坊、2011)としています。
日本の女子大学生は外出時だけでなく、家の中で過ごすときでもお化粧を入念にする習慣があるという回答も。デパートの化粧品売場などでの「『メイクサービス』の経験率」も、韓国の女子大学生より高かったそうです(金・大坊、2011)。これは、他人に美しい自分を見られたいというよりも、お化粧をすることで気分転換ができる、自分に自信がつく、といった、自分の内面に対する効用をより強く感じていることの表れだと言えそうです。
過去のウェルビーイング研究でも、自分の外見への満足度が高いほど、幸福度も高くなるという相関関係は示されてきました。では、外向きの韓国と内向きの日本、お化粧への向き合い方の違いは、個人の幸福度にどんな影響を与えるのでしょうか。
まず押さえておきたいのは、日韓問わず、素顔に満足している人ほど主観的な幸福度は高いということ。そして、素顔に満足していないほど化粧を入念にするという傾向があるということ(「素顔に満足していると、化粧を入念にしない」、金・大坊、2011)。いずれにしても外見の欠点というか、満足のいっていない素顔を補うためにお化粧をしている点です。
その上でどのような化粧をしているのかというと、日本ではベースメイク、アイメイク、チーク、韓国ではベースメイクとリップメイクが挙げられました。これらの中でどの化粧が主観的な幸福度を高めていたかを調べたところ、「日本におけるアイメイク」のみが、プラスに働いていたそうです。
つまり、内向きの日本のほうが「“化粧行為自体が持つ満足感”という効用感を韓国に比べて強く感じており」(金・大坊、2011)、そのときに重要な役割を担っていたのがアイメイクだったということです。
どうやら日本において、化粧で幸福度を上げるにはアイメイクが重要らしい。論文ではその理由を「近年の日本では西欧文化との接触機会が増し、受容的同調や抑制ではなく、個性の表現に価値がおかれ、活動性や自己主張を求められているため、顔の構造の主張や表現力が重視されて」(金・大坊、2011)いると分析しています。
韓国の女子大学生にとっても、美のお手本はヨーロッパ人やアメリカ人で、西洋文化の影響は日本と同じように受けているとのこと。それでも日本人女性だけがアイメイクで目や眉を強調しようとするのは、「個」を際立たせる表現として化粧をしているからなのかもしれません。
「『大きな目』指向が根強い」(金・大坊、2011)日本において、自分の目がいかに大きく魅力的に見えるかは、女性の幸福度を左右するほど重要のポイント。日本の女性が化粧から得る満足感の大きさも、“アイメイクへのこだわり”と相関関係にあるのかもしれません。
「お化粧後の仕上り」としては、同じように見えるかもしれない日本と韓国の女子大学生。しかし化粧への向き合い方や、その意味合いは、文化的・社会的な背景・文脈も異なっているため、本人の幸福度への影響という点では大きく違うようです。
引用論文:大学生における化粧行動と主観的幸福感に関する日韓比較研究(2011、https://doi.org/10.18910/8748)
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