2024.03.21

365日スパイスカレー生活!印度カリー子さんに聞く「幸せになる食のマイルール」

多忙な毎日を過ごしていると、つい食生活が乱れがちに。お腹が満たされれば何でもいいと、食を楽しむ姿勢が失われている人もいるのではないでしょうか。

今回登場いただくのは、スパイス料理研究家兼タレントの印度カリー子さん。スパイスを研究し、カレーを毎日食べ続ける……そんな食への探究の先に、どんなウェルビーングな人生が広がっていたのでしょうか。

食へのこだわりがもたらす幸せや、日常生活に取り入れやすいスパイスを印度カリー子さんにお聞きしました。
【印度カリー子】スパイス料理研究家兼タレント。スパイス初心者のための専門店 香林館(株)代表取締役。「スパイスカレーをおうちでもっと手軽に」をモットーに、初心者のためのオリジナルスパイスセットの開発・販売をする他、レシピ本執筆、大手企業と商品開発・マーケティング、コンサルティングなど幅広く活動。著書累計発行部数は39万部超(2023年9月現在)、全17作 

作っていて楽しく、飽きずに継続できるのがスパイスカレーの魅力

――毎日スパイスカレーを食べているそうですね。どのような点に魅力を感じられたのでしょうか?

印度カリー子さん(以下、カリー子):スパイスカレーの魅力は3つあると思っていて。1つ目は作っていて楽しい料理であること。スパイスカレーは植物の実や粉末を3〜10種類調合します。鍋をかき混ぜていると、まるで魔法の薬を作る魔女のような気分が味わえるんです(笑)。自宅のキッチンで非日常な体験ができる面白さに、どんどん魅了されていきました。

カリー子:2つ目の魅力は、比較的安い食材で作れて、継続しやすい点です。一般的にスパイスカレーに必要な材料は、スパイスと調味料以外だとタマネギ、ニンニク、ショウガ、肉だけで、どれも価格が安定しています。

3つ目は、多彩なアレンジができて飽きないこと。市販のルーを使ったカレーは、食材を変えても毎回同じ味になりがちです。一方、スパイスカレーはスパイスの組み合わせを変えれば、香りも変わるため、市販のルーを使ったカレーよりも味にバリエーションを出せます。

印度カリー子さんが作ったスパイスカレー。スパイスや食材を変えて毎回違う味を生み出す

老若男女みんなで食卓を囲めるスパイスカレー

――お話を伺っていると「作るとき」「食べるとき」にもたらされる幸せがスパイスカレーにはありそうだと感じました。作るときに感じる幸せってどんな点にありますか?

カリー子:毎日料理をしていると、だんだんレシピがマンネリ化して飽きてきちゃいます。そうなったときに「新しい味の料理を作りたい」という気持ちに、スパイスカレーは応えてくれる。先ほどお伝えしたように、スパイスカレーは食材やスパイスの組み合わせで何通りもの新しい味を作れて、毎回発見があります。

――なるほど! ではスパイスカレーを食べるときの幸せは、どんな部分にあると感じますか?

カリー子:味だけではなく、多彩な香りがもたらす幸せがスパイスカレーにはあると思っています。人間の嗅覚のセンサーは400種類あり、数十万種類の香りを識別できると言われています。つまり香りは飽きることがないほどの種類があり、私たちはそれらを楽しむことができる。

そしてスパイスカレーは、スパイスの組み合わせ次第で、その数十万種類の香りを多彩に生み出すことができます。スパイスカレーを毎日食べても飽きずにおいしく感じられるのは、香りの効果も大きいと思います。

カリー子:また、カレーは日本の国民食と言われるくらい老若男女に受けいれられていて、親しみやすい食べ物ですよね。家族や友人などみんなでおいしく食卓を囲める点もポイントです。

意外と知られていませんが、辛いものが苦手な人でも食べられるのがスパイスカレーです。カレーに使われるスパイスはおおよそ15種類で、辛いスパイスは唐辛子とブラックペッパーだけ。これらを使わなければ、子どもも食べられる辛くないカレーも作れます。さらに、スパイスカレーでは小麦粉を使わないので、小麦粉アレルギーの方でも食べられますよ。

初めてスパイスカレーを作って食べた時の感動が原動力

――印度カリー子さんはカレーを毎日食べ続け、スパイスカレーの魅力を発信し続けていらっしゃいますが、どのような原動力で日々活動されているのでしょうか?

カリー子:最初にスパイスカレーを作って食べたときに感じた、あの感動をもっといろいろな人に共有したいという思いですね。今でも新しい味わいのカレーを食べると感動しますし、おいしいカレーが作れたらうれしいですし、その気持ちは色褪せていません。

――スパイスカレーを突きつめる中で、自分自身に変化を感じられたことがあれば教えてください。

カリー子:もともと私は内向きな研究者タイプで「人と話したり交流したりするのが得意ではない」なんて思っていたのですが、スパイスセットを作って販売するようになって、人との付き合い方も自分の心構えも変わりました。

印度カリー子さんのオリジナルスパイスセット。使い方や保存方法が丁寧に記された紙が同封されている

カリー子:毎週のように私のスパイスセットを購入して使ってくださる方がいて、「自分で作ったものがこんなにも受け入れてもらえるのか」と感動しましたね。さらにそういう方々からメッセージをもらうなど、いろいろな方の感謝の気持ちに触れたことによって「人と話して交流することも楽しい」と思えるようになって、自分の心が開いたところがあります。

――スパイスカレーと出合う前と後で、人との付き合い方にも変化があったんですね。

カリー子:最近は自分の専門領域外の人と組んで、新しいものを作ることにも興味を持つようになりました。スパイスカレーに関する活動は、今では生きがいになっています。

食事に幸せを見出せた、マインドフルネス・イーティングの考え方

――スパイスカレーを毎日食べるほど、食にのめり込んでいる印度カリー子さんにとって、「食事」はどういうものだと捉えていますか?

カリー子:昨今の飽食社会においては「食事は心を満たすこと」だと思っています。

私も以前はいくら食べても満たされない感じがあって、食後にケーキを食べてもお腹はいっぱいになるけど、満たされたという感じはしなかったんです。しかし、スパイスカレーを作ったらとても楽しいし、食べたあとの多幸感もすごくて。満たされないものを食べるぐらいなら、カレーを食べたいと思うようになりました。

それからは漫然と食事をすることは無くなりましたね。食べる直前に「自分はいま何が食べたいか」と心と体の声に耳を澄ませて、それに応える食事をするようになりました。

――食事は栄養を摂取するだけではなく、心を満たすものでもあるのですね。

カリー子:アメリカで肥満の方の精神ケアを行う方々の間では、「マインドフルネス・イーティング」という考え方が一般的になっています。適当に何かを食べても心は満たされません。けれど五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)をフルに使って大切に一口ずつ食べれば、心は満たされる。ただ健康的な食事を摂っていれば良いのではなく、健康的な食事を摂取して自分の体を労り、大切にする行為が重要なんです。

こういったマインドフルネス・イーティングの考え方は、食べ慣れた日本の家庭料理で行うよりも、香りが多彩で知覚的に新しさを見出しやすいスパイスカレーの方が実践しやすいと思っています。

ちなみに、私は食事をするときにスマホはテーブルに置かず、テレビや音楽も消します。周りの全ての情報をシャットアウトして、目の前の食事と真剣に向き合うためです。

――食事と真剣に向き合うことの大切さはわかっていても、忙しさを言い訳にして、どうしてもパパッと適当に食事を済ませてしまう人も多い気がします。

カリー子:「忙しいからできない」とよく言われますが、例えば、「ながら食べをして短縮した10分で人生が劇的に変わる何かを成し遂げたか?」と問いかけてみて欲しいですね。もしできてないなら、それくらいの時間は確保できるはず。

朝ご飯をいつも3分で済ませているなら、15分かけてみてください。15分って案外長くて、食事の満足度も変わるはずです。

日々の生活に取り入れたい3つのスパイス

五感を刺激して、心を満たしてくれるスパイス。印度カリー子さんのように毎日スパイスカレーを作って食べるのは難しい……という方は、いつもの料理にスパイスをちょい足しするのはいかがでしょうか?

日常生活に取り入れやすいスパイス3つを、印度カリー子さんが教えてくれました。

1.毎日の料理に取り入れやすい「クミンパウダー」

クミンはセリ科の植物で、料理をエスニックな風味にしてくれます。いつもの胡椒をクミンパウダーに置き換えれば、味わいや香りもひと味違うものになるでしょう。クミンパウダーは初心者でも使いやすいスパイスです。例えばブロッコリーや豚肉を、塩とクミンで炒めるとおいしいですよ。(印度カリー子さん)

2. 健康を意識したいなら「ターメリック」

ターメリックはショウガ科の植物で、土のような香りが特徴的です。ウコンやクルクマとも呼ばれています。抗酸化作用に優れているため、私は風邪の引き始めにホットミルクにターメリックを溶かして、ハチミツと生姜を入れて飲んで対策しています。料理だと、魚介系やジャガイモと相性がよく、スープや炒め物にも使いやすいです。(印度カリー子さん)

3.健康と美容の強い味方「シナモン」

シナモンはクスノキ科の常緑樹の樹皮で、甘くエキゾチックな香りがします。シナモンも抗酸化作用やアンチエイジングが期待されています。今回用意したのは一般的な「セイロンシナモン」ではなく「カシア」なんですが、フローラルでフワッと香りが立ち上るセイロンシナモンと違い、カシアは奥深い香りになります。私はパウダー状にしてグラノーラに入れたり、青汁に入れたり、ヨーグルトとハチミツと一緒に食べたり、甘いものにふりかけることが多いです。(印度カリー子さん)

「食」に向き合う時間を大切にしてウェルビーイングを目指そう

印度カリー子さんにとって生涯続けられる趣味であり仕事であり、生活に欠かせない食の喜びをもたらしたスパイスカレー。好きなことを突きつめると、そこには心が躍る出来事や大切な人たちとの出会いがありました。好きという気持ちを育てていく大切さを知ることができた気がします。

そして、私たちが日々何気なく行っている食事との向き合い方を変えることで、より一層心身ともに満たされた幸せな状態が訪れるということも。「食」と向き合う一瞬一瞬を大事にした先に、さらなるウェルビーイングはあるようです。

(執筆:中森りほ/撮影・編集:ノオト)

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Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。