まず最初にお話を伺ったのは、車中泊の様子をYouTubeで伝えているけんじとあかりさん。2021年7月から約1年をかけて車中泊での日本一周を達成されました。現在は北海道に拠点を置き、アウトドアや車中泊に関する情報を発信されています。
けんじとあかりさん
車中泊と聞くと一日中車内にいるイメージがありますが、実際は車外で過ごす時間の方が多いのだとか。日本一周をした時には、どのような生活を送っていたのでしょうか?
「車中泊旅の時は、朝食と夕食は車内で自炊し、昼は観光地を巡ることが多かったです。入浴は温泉施設やインターネットカフェを利用し、トイレは公衆トイレや道の駅を使っていました。旅そのものは楽しく刺激的な日々でしたが、不便さを感じる部分があったのも正直なところ。思わぬ天候変化や車両トラブルなどもあるため、変化を楽しめるような人なら、新たな旅の選択肢として車中泊のメリットを感じてもらえるかもしれませんね」
また快適に過ごすためには、車両選びもポイントとのこと。お二人は、経済的な部分と効率よく旅先を周ることができる「軽バン(カリー号)」をチョイスされました。
車中泊をしやすいように、内装は自分たちで約17.5万円かけてDIYしている
日本一周の旅を終え、北海道に移住したお二人。車中泊を経験したことで「住まい」に対してどのような変化が生まれたのでしょうか?
「当たり前に感じていたことに感謝できるようになりました。家ではスイッチひとつで電気や水道が使えます。車中泊では限られた電力や水源を考えながら生活していたので、あらためて家のありがたみを感じ、節電・節水意識はもちろんのこと防災意識も高まったと感じています。
また住まいとは一定の場所にあるもので、動かせないものだと考えていましたが、車中泊を経験したことで“移動できる住まい”という新たな価値観に気づくことができました」
新しい住まいのあり方を知ったけんじとあかりさん。車さえあれば気軽に始められる車中泊ですが、自分が理想とする車中泊はどういうものか、何を重視するのか考えた上で選択されることが大切だとも語ります。1年の車中泊を経験し、二人の中で「幸せ」の感じ方にも変化が生まれてきたのだとか。どのような変化だったのでしょうか?
「本当に必要なものに価値観を見出すようになり、持たない幸せを感じるようになったんです。車中泊で持って行ける荷物は最小限。必要なものを取捨選択していく中で、モノへの執着がなくなり、今ある物を大切にする幸せを感じられるようになりました。衝動買いや無駄遣いも減り、今では人間関係や生活習慣まで見直せるように。
私たちにとって、ウェルビーイングな暮らしとは、好きな人と好きな場所で好きなことをしながら暮らすことと言えるかもしれません。車中泊の経験を通して、気づかせてもらえましたね」
ポータブル電源を使って、車内でたこ焼きパーティーをするけんじとあかりさん
車中泊を通じて住まいをミニマムにしたことで、あるモノ・コトの価値に気づかれたお二人。現在は、共に日本一周をしたカリー号だけでなく、積載力があり広い車内の「宅配バン」を購入されたそう。今後、お二人がどんな幸せに向かって進んでいくのか、楽しみになりますね。
ホテル代など経済面ではお得に楽しめる車中泊ですが、トイレやキッチンなど一般的な住居に「ある」ものが「ない」ことも長い旅を続けていく中では知っておかなくてはいけません。メリットとデメリットを理解した上で、自分ならどんな車中泊をしてみたいのか、しっかりイメージしておくことが大切でしょう。
続いてご紹介するのは、“小さな家”を意味する「タイニーハウス」に住んでいる相馬由季さん。自ら制作したタイニーハウス「もぐら号」に2020年末から夫婦で暮らしています。2023年にはタイニーハウスの暮らしを体験できる「カワウソ号」を自宅の隣に新設し、宿泊施設として運用されているとのこと。
相馬由季さんご夫婦
「もぐら号」の広さは12平米と5平米のロフトで、キッチンとシャワー・トイレ、エアコン付き! 電気・ガス・上下水道も通っているので、生活に不便はないのだとか。相馬さんはなぜタイニーハウスを選んだのでしょうか?
「もともと『タイニーハウスを作って住むこと』が夢でした。家は高額なローンを組む、家賃を払って住み続けるという固定観念を壊したい、ミニマルな暮らしだからこそ細部にこだわれるのではないか? と考えていたからです。この『もぐら号』は、自作なので400万円ほどの制作費で、約2年かけて完成させました。毎月の光熱費も全て合わせて1万円ほどですし、家がコンパクトな分メンテナンスも楽なんです。
タイニーハウスは、コンパクトな空間、シンプルな暮らしに本質的な豊かさを見出せる人が向いていると思っています。『生活費を抑えたい』『個性的な暮らしをしてみたい』など理想が第一にくる人には、あまりおすすめできません。安く住みたいだけであれば、家賃の低い家を選んだり、都心から離れたエリアで家を購入されたりするほうが快適に過ごせますからね」
もぐら号の内装。生活スペースや水回りなど設備が充実している
タイニーハウスに住む大きな魅力は、ミニマルに暮らすことで生きることがより自由になり、選択肢が広がることだと相馬さんは語ります。室内のどこをみても自分の好きなものであふれている、苦労して作ったからこその愛着がある、そんなエネルギーが「もぐら号」には宿っているのでしょう。タイニーハウスで暮らしていくことで「幸せ」の感じ方に変化は生まれたのでしょうか?
「大好きなものが詰まった空間に囲まれて、大切な夫とのんびり暮らせることが心から幸せだと感じています。また遊びに来た友達や隣の『カワウソ号』に泊まってくれた人たちから、価値観が変わった、すごく楽しかったという声をいただけると、私も幸せを感じられるんです。
夢を追いかけて作ったタイニーハウスですが、今はそれが生きがいに。最小限のもので身軽に、自分のやりたいことや情熱を注げている今の状態が、私にとってのウェルビーイングにつながっているのだと思います」
屋根裏部屋のようなロフトは、寝室として活用
タイニーハウスを作って住むという夢を叶え、さらなる幸せを見つけた相馬さん。幸せについてこんなことも教えてくれました。
「いわゆる社会的な幸せがどうであろうと、自分が大切なものや人を理解していることが幸せなことだと思います。タイニーハウスに住めば幸せになれるのではなく、これはひとつのきっかけにすぎません。どこで、誰と、どんなふうに暮らしたとしても、自分が考える“幸せの本質”を手放さなければいいと思いますよ」
どんなにミニマルになっても、“幸せの本質”は手放さない。住まいにおける幸せをどう定義するか、これは一人ひとり変わってきます。幸せの本質を見つけたい、住まいへの固定観念を外す機会を作ってみたい方は、タイニーハウスに泊まってみることで見つかるかもしれませんね。
最後は、2年以上ホテル暮らしを続けられているイワタリサさんをご紹介します。イワタさんは、2021年末からグッドルーム株式会社に就職され、自社サービスの「goodroom サブスくらし」を活用しながらホテル暮らしを楽しまれています。
イワタリサさん
住まいを転々とされると不便も多いのでは?と聞くと、「最近は、宅配も最寄りのコンビニで受け取れるので不自由さはありませんよ」と明るく答えてくれたイワタさん。ホテル暮らしを始めたきっかけとは?
「もともと国際線のグランドスタッフとして羽田空港で働いていたんです。毎日が刺激的でキラキラしていたのですが、コロナ禍で在宅勤務に……。家の中に籠ることも増え、自分の働き方や生き方について考えるようになりました。そんな時にたまたま見つけたのが、手軽にホテル暮らしができる『goodroom サブスくらし』。
もともとフットワークも軽く、旅行も大好きだったので、旅行業界が落ち込んでいくのをみているのがツラかったんですよね。今後どんなことがあっても日本の中で経済がまわせるような仕組みをこの会社なら作れるんじゃないか?と、サービスをよりよくするためグッドルームへの転職を決心しました。現在もホテル暮らしを続けています」
ホテル暮らしの様子。生活しやすい環境を整えている
運命のような出会いから、ホテル暮らしを選択したイワタさん。この2年間でどんな心境の変化が起こったのか教えていただきました。
「どこにお金をかけるのか考える機会が増えましたね。私の場合は、モノにかけるお金が減って、コト消費が増えたと思います。昔はモノが多い方が心が満たされると思っていましたが、モノの多さが自分のフットワークを妨げる足枷だったと気がついたんです。身軽に自由に動ける楽しさを知ることができました。
ホテルでの暮らしは、生活に必要な日用品が揃っているし、掃除もしていただけるので暮らす分には不自由がありません。だからといって何もかも手放したのかというとそうではなくて。自分らしい部屋にするアイテムは必ず持ち歩いています。自分のお気に入りのものを飾るだけで、ホテル暮らしが日常に変わりますよ」
宿泊している部屋の一角には、いつもお気に入りの雑貨を飾るそう
イワタさんが昨年使った宿泊代は141万3300円。賃料や更新料、光熱費や日用品を購入することを考えると都心の賃貸で暮らすよりもお得になる人もいるでしょう。ホテル暮らしをする中で、どんな幸せにたどりついたのでしょうか?
「自分に必要なモノの量が把握できたので、本当にやりたかったコトにどんどん挑戦できるようになりました。私にとっての幸せは、経験を積み重ねていくこと。誰よりも欲張りに、いろんな経験をしていきたいんです。ホテル暮らしは、私の好奇心を満たしてくれる暮らし方だったのかもしれませんね。毎日ちょっとずつでも新しい経験をして、幸せを積み重ねていく日々が私のウェルビーイングにつながっているのだと思います」
イワタさんは「ホテル暮らしは選択肢のひとつ」とお話ししていました。住まいは買うか借りるかの2択という思い込みを捨てて、好きな場所を選んでみるのも楽しそうですね。自分にとってウェルビーイングを感じる街はどこなのか、暮らしながら考えていくことができそうです。
3組の話をお聞きし、住まいのあり方を考えることは、「自分にとって必要なモノ」と向き合うことなのだと感じました。
住まいを「自分自身を表現する箱」と考えるのであれば、どこにある箱を選び、限られた箱の中に何を入れ、どう暮らすのかは幸福度とも深く関係してくるのかもしれません。
老子の言葉に「足るを知る者は富む」という教えがあります。これは、自分を満足させることを知っている人は、経済面で苦しかったとしても心は豊かで幸福であるという意味が込められた言葉です。トレンドや常識にとらわれず、自分にとって満足できる暮らしを実現していくことが、住まいにとってのウェルビーイングを実現してくれるように思います。
みなさんは今の暮らしに満足できていますか?
満足できていないのであれば、どうしたら満足できるのか?
3組のお話を参考にしながら、今の住まいについて考えてみると新たなヒントが見つかるかもしれません。
(執筆:つるたちかこ/編集:ノオト)