・年齢や国籍といった個人のバックグラウンドを理由に、住まい探しに不便や困りごとを抱える人々(住宅弱者)がいる
・住宅弱者への理解の広まりや、不動産業界全体の変化が求められている
・生活の基盤である「住まい」はウェルビーイングに深く関わっている
高齢者、外国籍、LGBTQ、生活保護利用者、シングルマザー・ファザー、被災者、障がい者といった「住宅弱者」と呼ばれる方々を対象に、LIFULL HOME'Sでは2022年に実態調査を実施。約6割が「バックグラウンド」を理由に、住まい探しで不便さや困ったことがあった、と回答しました。
(引用:LIFULL HOME'S 2022年度「住まい探し」の実態調査調査)
同調査では、不便を感じたり困ったりした経験について、以下のような声が集まっています。
▼高齢者
「65歳以上であることから、保証金や保証会社の契約金を倍近く請求された。気に入った物件があったが、不動産会社に問い合わせた際に、こちらの詳しい内容を聞くまでもなく、年齢で審査には通らないので、その物件はあきらめるよう勧められた」(女性60代以上)
▼日本在住外国人
「外国籍のため、大家さんに断られたことがあります。また、日本人の緊急連絡先が必要ということ。いないと必ず断られます」(女性30代)
▼LGBT
「女性同士のカップルはトラブルが多そうという理由で入居を断られた」(女性30代)
「ジェンダーの点を開示しないと契約できないような物件があった」(男性20代)
▼生活困窮層
「生活保護者とは契約しないオーナーがいて希望物件を契約できなかった。単身世帯のため、近隣に親族がいる事が前提になる不動産会社があった」(男性60代以上)
▼シングルマザー/ファザー
「初めて賃貸を探し始めた時、新人営業の方に、家賃はきちんと支払えますか?と失礼なことを聞かれた」(女性40代)
▼被災者
「被災者イコール貧しいと勝手に思われる」(男性60代)
▼障がい者
「精神障害者という事で契約が破棄になったり、『精神障がい者には貸せる物件が無い』と言われたことがある」(男性40代)
(引用:LIFULL HOME'S 2022年度「住まい探し」の実態調査調査)
実際にどのようなハードルがあり、現実的にはどのように対応しているのか。今回は当事者や支援者である3名から伺いました。
<プロフィール>
パートナーのREYAN(れーやん)さんと共に、登録者数13万人を超えるYouTubeチャンネル「エルビアンTV」でレズビアンカップルの情報を発信。2021年2月、仲間とともに不動産仲介サービス「カタチ(LGBTQフレンドリー不動産)」(Livmo)を立ち上げた。
Uさんは、パートナーのREYANさんと一緒に2人で暮らす部屋を探していた際、「同性カップルが家を借りる困難」を痛感したといいます。
「まず感じたのが、カミングアウトのハードルです。女性2人だと友人と見られてしまうため、不動産会社に同性カップルだと伝える必要があります。LGBTQが認知されていない日本では仲の良い人へのカミングアウトでさえ気が重いのに、初対面の相手に伝えるのは、なおさら困難です。同性同士での入居希望を伝えた後に申し込みを断られてしまうこともあり、住みたい物件を諦めた経験もあります」(Uさん)
そうした経験があり、現在のパートナーとともにLGBTQフレンドリー不動産を立ち上げ、当事者の賃貸をサポートしています。
「事業を開始してからも、同性カップルであるために申し込みを断ったり、他の男女カップルの申し込みを優先して審査を止めたりする管理会社に遭遇しました」とUさん。オーナーや管理会社の方と丁寧に対話し、契約希望者の人柄もしっかり伝えることで、ほとんどの物件で同性カップルの審査が通るようになったといいます。
「担当者に対面でカミングアウトすることに困難を感じる当事者は多いでしょう。オンライン上で個人情報を伝えることができ、その際のフォーマットに『同性パートナー』の選択肢が組み込まれていると親切だと思います」とUさんは話してくれました。
<プロフィール>
大学生時代からホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。2019年に特定非営利活動法人 サンカクシャを立ち上げ、代表理事に就任。15歳から25歳前後までの学校や社会になじめない若者に対し、「居場所」「住まい」「仕事」の3つのサポートをおこなっている。
15〜25歳の保護者を頼れない若者を支援する立場から、当事者が抱えるハードルを荒井さんはこう話します。
「物価上昇などの環境悪化により若者の貧困が深刻化するなか、保護者を頼れない若者にとっては、家を借りて一人暮らしをすること自体が大きなハードルとなっています。続けられる仕事が見つかり、いざ一人暮らしをしようとすると家探しの問題にぶつかります。保護者に保証人となってもらうことができないため保証会社を利用しようとしても、外国籍であるなど何らかの事情で審査が通らないことも多いです」(荒井さん)
なぜ親に頼れないかといった家庭の事情を説明しなければならず、手続きにつまづく若者も。サンカクシャでは、連携している弁護士に相談したり、スタッフが手続きをサポートしたりして、若者に寄り添った対応を続けています。
「初期費用が極力かからない物件や家具が備え付けの物件、親身に手続きをサポートしてくれる不動産会社の情報提供など、安価で安心できる住まいを若者も確保できる体制が整うことを願っています」(荒井さん)
<プロフィール>
高校卒業後20歳で医療機器システム開発の会社を起業。医療機器の設計開発やPCサポート、人材派遣業と事業を拡大し、26歳で約6社を経営する。2001年大手建築会社との都市開発事業で障がい者を雇用していたが、事業終了に伴い障がい者の暮らしの問題に直面し、2010年1月メイクホーム株式会社を設立。2018年には東京都の住宅確保要配慮者居住支援法人の指定を受け、企業視点での幅広い住宅弱者支援を行う。
長期にわたり、生活保護利用者、高齢者、障がい者などの住まい探しを支援する石原さんのコメントからは、当事者が抱えるシビアな現状がうかがえます。
「例えば、高齢者や障がい者が一人暮らしの部屋を借りようとする場合、200件の問い合わせをしてオーナーや管理会社の許可が出るのが3件というのが現実です。当事者の多くが希望するのは都内で家賃5万円ほどの部屋で、管理会社の取り分は5%にあたる2,500円ほど。日々のサポート対応やメンテナンスが増えがちな高齢者や障がい者は、コストに対して割に合わないと思われがちです」(石原さん)
オーナー側の視点では、高齢者の突然死やゴミの溜め込み、障がい者の火災トラブルやけが、個別対応の手間などへの懸念から、当事者を避ける傾向があるといいます。
「そういった懸念は理解できますが、障がい者といっても健常者と同じようにトラブルを避けて暮らせる人もたくさんいます。しかし、担当者に障がいの種類や程度における知識がないので、個別の事情が配慮されないのです」(石原さん)
その結果、築浅で駅チカの部屋に住みたいといった希望があっても審査に通らず、選択肢として残るのは築25年を超え、駅から徒歩15分以上といった条件の良くない部屋ばかりになることが一般的です。
こうした現状を変えていこうと、「LIFULL HOME'S FRINEDLY DOOR」では、国籍、年齢、性別などさまざまなバックグラウンドを持つ人と、そういった背景に理解のある不動産会社をマッチングしています。
「外国籍」「LGBTQ」「生活保護利用者」「シングルマザー・ファザー」など、9つのカテゴリー別にフレンドリーな不動産会社を検索、メールや電話で問い合わせができます。賛同している不動産店舗数は、現在5000以上に。実際にサービスを利用した方が相談できる「FRIENDLY DOOR 相談窓口」も用意されています。
Webサービスの構築だけではなく、サイトでは見えない部分のサポートにも注力。ノウハウがまだまだ蓄積されていない住宅弱者の受け入れについて、不動産会社向けに接客チェックリストを公開したり、物件オーナー向けのセミナーを開催したりと、家を借りづらい状況を打破するべく尽力しています。
ウェルビーイングを考えていくうえで、生活の土台となる「住まい」は必要不可欠なもの。心身が良好な状態を目指すにあたって、まずはその基盤を整えなくてはなりません。
「住まい探し」の重要性について、「LIFULL HOME'S FRINEDLY DOOR」事業責任者の龔軼群(キョウイグン)さんはこう話します。
住宅は「生活の根幹」です。ルーツや肌の色、国籍といった変えられないことを理由に判断されて、住宅を自由に選べないのはおかしいのではないでしょうか。
『LIFULL HOME'S FRINEDLY DOOR』は、家を自由に選べない人たちを取り残さず、インクルーシブに取り込んでいくサービスです。一人ひとりが生きていくうえでの豊かさを実現すれば、一人ひとりのウェルビーイングにもつながるのではないかと考えています。
(引用:LIFULL HOME'S「FRIENDLY DOOR」が目指すウェルビーイング 「住宅弱者」を支援:【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル)
バックグラウンドにとらわれずに家を選べるようになるには、不動産業界だけでなく生活者一人ひとりの意識や暮らしに関わるビジネスモデルの変化が求められます。困難を感じている人々の声に耳を傾け、それを解決していこうとする動きが広まれば、生活者である私たち一人ひとりのウェルビーイングにもつながっていくはずです。
(執筆:小林香織/編集:ノオト)
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