2024.01.29

バナナは幸せにつながっている!創業1931年のバナナ専門店「佐藤商店」に聞くバナナの魅力

【セロ飯レポートvol.1】
生きていくのに欠かせない欲求、「食欲」。食べ物のことを考えていったその先に、ウェルビーイングのヒントがあるのでは? 例えば幸せホルモンと呼ばれる物質の一つ「セロトニン」。Well-being Matrix編集部では、セロトニンの分泌に役立つ食べ物を「セロ飯」と呼び、心躍るハッピーな暮らしとの関係を紐解きます。

今回は「バナナ」に注目! 1931年、初代がバナナのあまりのおいしさに衝撃を受けたことで始まった、千葉県館山のバナナ専門店「佐藤商店」の三代目にお話を伺いました。

「セロ飯」バナナの魅力に注目してみよう 

心穏やかに満ち足りた日々を過ごしたい……。そんなときに意識したいのが、幸せホルモンと呼ばれる脳内物質「セロトニン」。精神安定剤によく似た分子構造をしており、心の安定に役立つといわれています。 

 そんなセロトニンの材料となるのが、「トリプトファン」という必須アミノ酸の一種。体内では作れないため、食事から摂取する必要があります。また、トリプトファンがセロトニンに合成されるのを助ける「ビタミンB6」「炭水化物」なども合わせて摂取したほうがいい栄養素です。 

 そうなると気になるのが、これらを効率よく摂れる食べ物ですよね。その答えのひとつが、今回のテーマ「バナナ」なのです。 

 バナナはトリプトファン・炭水化物・ビタミンB6をすべて含んでいる食べもの。しかも、さっと皮をむいてすぐにパクッと頬張れるので、忙しい朝でも手軽に食べることができます。 

 でも、バナナっていつも何気なく食べていますよね。どんなバナナがおいしいバナナなのか、どう食べたらよりおいしく食べられるのか、意外と知られていないのでは……? 

 バナナの魅力を再認識するため、90年以上続くバナナ専門店「佐藤商店」の三代目・佐藤隆史さんに話を聞いてみました。 

日本で一番食べられている果物はバナナ 

まず、佐藤さんの思うバナナの魅力を教えてください。

佐藤隆史さん(以下、佐藤):食べやすくて、価格も手ごろで、栄養も豊富。日常に根付いた果物、というのが魅力ですね。じつは日本で一番食べられている果物はバナナなんですよ。 

  

ええっ、そうなんですか!? りんごやみかんじゃなくて? 

 佐藤:そうなんですよ、身近な果物だからでしょうか。手でむけばすぐに食べられますし。手っ取り早くエネルギー補給ができるので、最近はテレビのスポーツ中継でも、選手がバナナを食べている姿が映ったりします。 

 お客さんのなかにも、「毎朝1本ずつ食べてるよ〜」なんていう方がいらっしゃいますね。それに、高いものでもせいぜい数百円じゃないですか。かしこまっていない、日常的に食べやすい果物だなぁと思いますね。 

バナナ以外を置いていた時期もあったけど、バナナしか売れなかった 

佐藤商店さんはいつごろから営業されているんですか? 

 佐藤:昭和6年からです。宮城から横浜の港に出稼ぎに来ていたじいさん(祖父)が、初めてバナナを食べたときに「こんなにうまいものは他にないぞ!」と感激して、バナナを広めたいと思って店を始めたそうです。 

  

それで、横浜から館山に? 

 佐藤:はい。この土地を紹介してもらったそうです。本当に最初っからバナナ一本で。じいさんにとって、バナナはそれだけ魅力的な果物だったんでしょうね。 

  

すごい……。そのころはまだバナナは珍しい果物だったと思いますが、成立したんですね。 

 佐藤:年配の方々はよく「高級品だった」とか、「病気にならないと食べられなかった」とか言いますね。そう考えるとよく商売になっていたなぁと(笑)。子どもの頃、じいさんや父親を見て、「よくこれで仕事になってるなぁ」とか、「うち大丈夫なのかな」なんて思っていたぐらいです。  

 

ずっとバナナ一筋だったんですか? 

 佐藤:いえ、二度ほど他のものを取り扱ったこともあります。最初は第二次世界大戦のとき。仕入れが十分にできないから仕方なく、八百屋みたいな感じでやっていた時期もあるそうです。 

 次は40年ぐらい前に、父親が「バナナだけじゃ……」ってことで、いろんなフルーツを売った時期もあったんですけど、まあ見事にスベッて。

  

でも結果的に、バナナだけのほうがよかったと。 

 佐藤:そうですね。結局、お客さんの多くはバナナしか買っていかない。時代が早すぎたのかもしんないですけど、当時はマンゴーがまったく売れなくて。仕入れたけどダメになりそうだからって、よく子どものころ食べていた記憶があります(笑)。 

 

右上の後ろの方にちらっと写っている看板は、その当時の名残だという。

産地ごとに異なるバナナの味わい 

お店に置いてあるバナナの種類について教えてください。 

 佐藤:いまのところはフィリピン、エクアドル、台湾産の3つが基本です。他にもペルーやメキシコ、ベトナム産のものなど、試してはみたんですけど、やっぱり売れ行きがいいのがこの3種類でしたね。 

 ちなみに一般的にバナナというと、フィリピン産というイメージがあるかと思うんですが、輸出量はエクアドルが世界一なんですよ。日本が輸入している量はフィリピンが一番多いんですけど。 

  

へぇ! そうだったんですか。知らなかった! エクアドル産のバナナはスーパーでもここ最近は増えてきましたよね。 

 佐藤:うちも20年以上前は台湾やフィリピン産だけを扱っていたんですが、親父が商社さんとやりとりをするなかでエクアドル産を見つけて。味やサイズ感に惚れこんだんですよ。 

 自意識過剰かもしれないけど、うちがメディアで取り上げられたときにエクアドル産のバナナを推して以降、市内のスーパーさんでも明らかにエクアドルの量が増えたよな……と思っています(笑)。 

 エクアドル産のバナナも、フィリピン産のバナナも、品種は同じで「キャベンディッシュ」というものなんですが、育つ環境の違いで味が変わってくるんです。 

  

へええ! 台湾バナナはまた別の品種ですかね。 

佐藤:そうですね。「北蕉種(ほくしょうしゅ)」という品種で、「キャベンディッシュ」よりも、ねっとりした食感が特徴です。あと、台湾には冬があるので、バナナにも「旬」があるんですよ。3月、4月ごろになると、1本1本が太くなって、香りも強く、味も濃くなるので、だいぶおすすめです。 

  

佐藤さんご自身ではどれがお好きですか? 

 佐藤:エクアドルですね。フルーティーでおいしいですよ。特に、熟すよりも少し前、頬張ったときに「サクッ」とした食感を感じられるくらいの状態が一番好きです。 

 

熟成にかける時間が、味に変化をもたらす 

佐藤商店さんでは、青い状態のバナナを仕入れて、お店で追熟しているそうですね。 

 佐藤:はい。お店の奥にある「ムロ」というバナナ専用の倉庫の温度や湿度を細かく調整して、ゆっくりゆっくり時間をかけて熟成させています。でも、これがなかなかね。生ものなんで。 

 一気に温度を上げて、湿度を高くすれば、短時間で黄色くはなりますけど、それは皮が黄色くなっただけで、果肉の芯の方までしっかりと熟成されているとは限らないんです。  

  

おいしくはない、と。 

 佐藤:そう思いますね。なるべく外見と中身を合わせて、完熟させていくように心がけています。  

  

熟成の温度とかっていうのは、時期によって変わってきたりするんですか? 

 佐藤:多少あります。あとはまあ、バナナの状態ですね。大きさとか。でも、例えば「この時期には何度で何十時間、湿度何パーセント」みたいなデータを、じいさんも父親もまったく残していなくて。  

  

ありますね、そういうこと。 

 佐藤:本当に申し訳ないけど、まったく体系的に説明できないんですよ。「たぶん○度くらいだな」とあたりをつけて一晩熟成させて、それを見て翌日「こういう感じかあ〜」って。「じゃあ、『こういう感じ』というのを説明してくださいよ」と言われてもうまく説明できなくて。 

かっこいい言い方をすれば「職人の勘」だけども。父親がやっていたのを、見よう見まねでやってますね。 

 あとは、僕だけでなく父親が生きていた頃から一緒に店を切り盛りしていた母親も、時々調整していますね。それで意見が割れるときもあるんですが(笑)。ああでもこうでもないと、ささやかに小競り合いしながら日々やっています。 

「ほんのちょっとの贅沢」を感じてもらって、お互い心地よくなれたらいい 

聞けば聞くほど手間がかかっているんだなぁと思いました。 

 佐藤:とはいえ、手間をかけた分だけ単価を上げられるものでもないので。ここ最近なんかだと、戦争やコロナの影響で、船が入ってこないこともありましたね。 

   

でも、バナナは日常に根付いているがゆえに、高値も付けづらい部分がありそうですね。 

佐藤:正直、こういうご時世なんで値段はもっと上げたい気持ちはあるんです、全体的に。税理士さんにも「もう少し値段を上げた方がいいですよ」とアドバイスされるんですけど、「じゃあうちのバナナが1本200円になったら、税理士さん買います?」って言ったら、「うーん」って(笑)。それが答えじゃないですか。  

  

難しいところですよね。 

佐藤:でも高級指向になって「うちのはお高いですよ」っていうのはやりたくないですし。理想では「スーパーさんよりもちょびっと高いけど、品物はしっかりしてますよ」と、そういうところで売っていきたいなと。 

  

自分も朝食はバナナ1本というときもあるんですけど、そこでちょっといいバナナを買ったりすると、テンション上がります。  

佐藤:そうそう、ほんのちょびっとの贅沢というか……。手軽に食べておいしいな、毎日食べて飽きないなといったものを提供できたらいいですよね。 

パクッっと食べてしまえば、あっという間かもしれないけど。日常生活の一部として、なるべくおいしく仕上げてね。お客様にいい形で提供できれば、って思いますね。  

ちょびっとでもいいものを買っていただいて、それで生まれる関係性を大事にしたいです。 

例えば、遠方から館山に遊びにきたついでにウチでバナナを買って帰って、「また買いにきちゃったよ〜!」なんて言ってくれる方がいたりして。そう言ってもらえるとうれしいですよ、やっぱり。一方で、近所の人が、毎日食べる用に4〜5本買って行って、4〜5日したらまた来てくれて……というのも、本当にありがたいんです。 

 とにかく、「おいしかったから、また来たよ」って言ってもらえるのが、一番うれしいですね。 

   

ちなみに、バナナがセロトニンを増やすっていう話は、どこかで聞いたことってありましたか? 

 佐藤:なかったです。セロトニンって言葉はちょっと聞き覚えがあったんですけど、なんだっけなんだっけ、って思ってて。今回の取材を受けて調べたら、「幸せホルモンかあ」と。バナナに含まれているとは知らなかったです。 

 でも先ほどおっしゃられたように、ちょっといいバナナを食べて「おいしい」と思ったり、テンションが上がったりするのも、バナナがもたらすひとつの幸せの形かもしれませんよね。 

バナナの力なのか、気持ちの問題なのかはわからないですけど。いずれにしても、バナナを通して幸せを感じてくれたら、私も幸せだなぁと思いますね。 

 

バナナを食べることが、ウェルビーイングの一歩になる 

 安くておいしいバナナ。高級バナナといってもせいぜい数百円。一般的なスーパーでは、1,000円を超えるものにはまず出会いません。だからこそ、庶民の日常に根付いた果物であり続けているのでしょう。 

 その裏には、手間をかけて追熟をしたり、値上げを我慢してでも、いいものをできるだけ安く提供したいという佐藤さんみたいな人がいるということに気づきました。 

 生産者、販売者、消費者、それぞれの幸せをつないでいるバナナ。そこに想いを馳せてみると、たった1本のバナナにさまざまなウェルビーイングが詰まっていることに気づかされます。 

 そして、たまにはちょっと高級なバナナを買ってみると、また違った世界が見えるかもしれません。日頃のちょっとしたご褒美に、さっそく筆者も買ってこようと思います。 

 

 <参考文献> 

『脳機能と栄養』横越英彦 編(幸書房) 

『うつの症状を飲んで食べて改善、元気いっぱいにする食事162』渡部芳德 監修(主婦の友社) 

 

<データ参照> 

農林水産省「知ってる?日本の食糧事情」食料自給率のお話(連載)その9:果実の自給率 

FAOSTAT 

財務省貿易統計 

 

(執筆:少年B/撮影・編集:高橋亜矢子(ノオト)) 

 

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人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。