2023.07.24

なぜサプールたちの姿は凛々しく、幸せそうに見えるのか。

「ファッション」でウェルビーイング

要約すると

  • 世界一お洒落な男たちとも称される「サプール」の美学とファッションは幸福感をもたらす。

  • 彼らは自らファッションを楽しむだけでなく、内戦と貧困で疲弊した人々に希望を与えるコンゴの文化である。

世界一オシャレだとも称される「サプール」と呼ばれる人々 

アフリカの中部に位置するコンゴ共和国に、「サプール」と呼ばれる人々がいます。彼らには特有のファッションスタイルを楽しむ習慣があり、現地で「お洒落で優雅な紳士たち」とされている人々です。本書『WHAT IS SAPEUR? 貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち』は、NHKのディレクター影島裕一氏が番組「世界イチバン」(2014年)の制作にあたり、現地に1カ月滞在し彼らに迫った取材記です。  

撮り下ろされたサプールの写真からは、多くの日本人とは異なる色彩感覚で服を選んでいるのがひと目でわかります。赤、青、黄、緑、紫、白などの艶やかなスーツや靴、小物アイテムに至るまでハイブランドで揃えられ、立ち姿はエレガントで凛々しく、そして、とても幸せそうに見えます。 

そんな彼らがお洒落をして街へ出かけると、モデルのような出立ちと「ディアタンス」と呼ばれる独特のステップで地面を踏み鳴らしながら歩くパフォーマンスに、その場に居合わせた人々が魅了され、人だかりができるそうです。 

しかし、サプールの多くは高級スーツを日常使いするような仕事に就いているわけではありません。電気工事士、タクシードライバー、消防士、木工職人、森林経営省の事務職員など職種は様々。また、サプール文化のあるコンゴ共和国が特別に豊かな国というわけでもありません。取材当時、「平均月収は、日本円に換算し約2万5千円。1日130円以下で生活する人が約3割」だったそうです。彼らにとって、いい服は本業で必要な物ではなく、気軽に買えるような代物でもない。それにもかかわらず、地道に働き、節約し、お金を貯め、収入の大半を洋服代に注ぎ込む。なぜサプールは、それほどファッションにこだわるのでしょうか。 

華やかな装いが持つ、オシャレ以上の意味 

彼らにとって、それは単にお洒落をするということ以上の意味があります。たとえば、綺麗な服を着るという行為は「清潔であること」を意味します。さらに「武器を持たない。軍靴を履く代わりにステップを刻む」という周囲への意志表明でもあるそうです。そして、「いい服を着たら、その服に見合った態度をとらなければならない。すなわち紳士でいることが求められる」と言います。  

コンゴ共和国の近現代の歴史には、長く続いた政情不安がありました。度重なる内乱に見舞われてきた同国において、ラグジュアリーな装いで歩くサプールの姿は、今ここでは争いが起きていないという意味合いも含むのです。 

59歳(取材時)だったサプールのレジェンドは、「サプールと戦争は対極にあります。共存などできません。サプールであり続けるということは、非暴力の運動でもある」と語り、電気工事士の若いサプールは「着飾っているときはとても幸福感がある。頭の中から辛いことやばかげた考えを取り除いてくれる」と話しています。 

コンゴ共和国の人々の厳しい現実の暗闇を、サプール文化という灯りが照らしているのです。 

服を着るという行為が生き方と結びついているサプール。物質的な豊かさにとらわれず、どのように自分の幸せを見出すのか。そんなウェルビーイングへの問いが彼らから投げかけられてくる1冊です。 

WHAT IS SAPEUR? 貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち NHK「地球イチバン」制作班/影嶋裕一 著、祥伝社、1,760円(税込)

プロフィール
Well-being Matrix
Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。