人はウェルビーイングであるときに、生産性が高まる。
感謝の自覚によって、その日のウェルビーイング度は高まる。
幸せの度合いが、中程度かつ日々変わりやすい人は「感謝」でより幸せになりやすい。
機械が人の仕事を奪う。かつてSFの世界で想像されていた未来像は、近年のテクノロジーの発達によって現実味を増していると言えます。2014年には、オックスフォード大学の研究者らが発表した論文「雇用の未来——コンピューター化によって仕事は失われるのか(The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation?)」が、向こう10〜20年のうちになくなる可能性の高い職種(レジ係、スポーツの審判など)をリストアップして、話題となりました。
これまで人間が行なってきた定型的な仕事が機械やコンピューターに置き換わるとすれば、人間が行なう仕事はより創造性をともなう、非定型な業務になっていくはずです。そうした予測のなかで、注目されているのが、ウェルビーイングです。
ウェルビーイングとは「身体的、精神的、社会的に良好な状態であること」を意味する概念で、これまでの先行研究でも、人はウェルビーイングであるときに個人の生産性が高まることが報告されています(Diener & Biswas-Diener、2008)。
アウトプットや労働時間といった数値で測定されてきた従来の定型的な仕事は、業務の見直しや自動化によってその生産性を高めてきました。しかし、非定型な仕事においては、個々の創造性とともに協創的な働き方が求められます。ウェルビーイングは、こうした仕事の集団としての生産性を向上させると期待されています。
「感謝する行為」がウェルビーイングに与える影響に注目した研究の結果、感謝する行為が日々変動する人は、そうでない人に比べて、「感謝する行為」によるウェルビーイング向上効果が大きいことがわかりました。 早稲田大学の平野雅章、東京工業大学工学院の妹尾大が中心となって、2018年に調査を行ないました。これは、早稲田大学の経営学修士14名のデータを対象に、どのような特性を持つ人の「感謝する行為」を増やせば、組織のウェルビーイング向上につながるのか、に関する調査です。 彼らは、組織内での「感謝する行為」を測定するために、複写式の「感謝付箋」を採用しました。 感謝付箋は「感謝の念の内容とその対象」を書き、その付箋の片割れを相手に渡して使います。 感謝付箋の発行を「感謝すること」と捉え、数値化しました。 これまでにも、彼らは企業内コミュニティにおけるウェルビーイングと生産性の向上を目的に「ウェルビーイング工学」プロジェクトを立ち上げ、継続的な研究・実験を進めていました。2018年3月の研究では、感謝付箋を発行した人は、その日のWB(ウェルビーイング)度が発行しなかった日よりも高いこと、特に WB を中程度に感じる人は、感謝付箋発行により、WB度が高まりやすいことがわかりました。
続く10月の研究では、「WB 度を中程度に感 じる」人の中でも、どのような特徴の人に「感謝付箋の発行」を促せば、WB度が上がりやすいのかを、明らかにしています。
結果として、日々のWB度が平均値よりも激しく上下する人は、感謝付箋の発行によりWB度が増加する傾向がみられました(「感謝付箋発行した日に44.2%も増加」平野ら、2018)。普段感じている幸福が安定している人よりも浮き沈みのある人のほうが感謝付箋の効果が発揮されやすかったのです。
感謝がウェルビーイングにつながることは他にも研究があり、すでに知られています。たとえば、幸福学の研究で知られる前野隆司さんが提唱する「幸せの四つの因子」。その因子の一つに、「ありがとう!」因子があり、感謝が幸福に影響することを示しています。
この研究では、さらに踏み込んで「感謝」がウェルビーイングにつながりやすい人と、そうでない人の特徴を明らかにしました。
もし、あなたが、「WB度が中程度で、それが日々変わりやすい人」という特徴にあてはまるのであれば、日々の暮らしの中で、積極的に感謝を意識してみると、幸せになりやすいかもしれません!