2024.03.25

CLOUDY・銅冶勇人さんに聞くWell-being

アフリカとゴールドマン・サックスの狭間で出合った幸せの見つけ方

「CLOUDY(クラウディ)」は、アフリカ・ガーナに生産拠点を持つアパレルブランド。

色鮮やかなアフリカンテキスタイルを用いたバッグやポーチ、フーディやワンピース、テーブルウェアなど各種アイテムを取りそろえています。ブランドの収益の一部は、現地の学校設立・運営費や雇用創出、公衆衛生支援など、さまざまな形でガーナ・ケニアの経済支援に役立てられるのです。

「彼らに何かをしてあげたい……というより、一緒にやってやろうぜ!って、チームメイトのような感覚が年々強くなってきて。むしろ僕らのほうが変わらなければならないなと感じるんです」

そう話すのは、CLOUDYを運営する株式会社DOYAの代表取締役であり、NPO法人CLOUDYで代表理事を務める銅冶勇人さん。ゴールドマン・サックスに勤務していた2010年に、NPO法人CLOUDYの前身であるDooooooooを立ち上げ、ライフワークとしてアフリカ支援に携わってきました。

米金融大手という言わば“資本主義社会の象徴”のような企業と、電力や水道、病院や学校といった社会インフラも整備途上にあり、貧困や失業、衛生環境などさまざまな課題を抱えながらも人口増加を続けるアフリカ。

ある種、両極にあるともいえる世界を知る銅冶さんにとって、Well-beingとは何なのでしょうか。銅冶さんの活動とその原動力をたどりながら、ご自身の幸福論を紐解きます。

同じ空の下で、誰かの“くもりの日”を思う

日夜人が行き交う、渋谷の「MIYASHITA PARK」。ハイブランドからカジュアルな居酒屋が立ち並ぶ横丁まで内包する商業施設の一角、2階のメインストリートに「CLOUDY」の店舗があります。

積み上げられたカナリアイエローのコンテナボックスと、色とりどりのアイテム。ターコイズグリーン、フューシャピンク、アイスブルー……太陽や花、鳥など自然のモチーフや幾何学模様が織りなす美しいテキスタイルに、思わず心を奪われます。

広大な大地、照りつける太陽と青い空……そんなわたしたちのアフリカのイメージをそのまま投影するように、鮮やかなテキスタイルが印象的なアイテムの数々。けれども、そのブランド名は“くもりの日”という意味。あえてイメージとは真逆のネーミングにしたのは、理由があると銅冶勇人さんは語ります。

「もしブランド名が『SUNNY』や『HAPPY』だったら、『ふーん、そういう感じか』と軽く流されてしまう。良い意味で違和感を抱くような名前にしたかったんです。

ソーシャルアクションに取り組んでいると、社会貢献にそこまで関心のない方にとっては、逆に距離感を抱かせてしまう。ただでさえアフリカって、物理的にも心情的にも距離が遠いじゃないですか。だから、ちょっと違和感のある名前から興味を持ってもらえたらと思ったんです」

仕事がうまくいかない、そもそも仕事もない。学びたいのに学べない。若くして子どもを産み、働くすべもない……同じ空の下で生きる誰かの、途方に暮れるような“くもりの日”を思い、未来を変えるアクションにつなげるため、CLOUDYは「くもりの日をきちんと楽しんで生きる」をブランドコンセプトに掲げています。

店内に陳列されたカラフルなアイテムは、商品タグをじっくり見なければ、アフリカ支援につながるものとはわかりません。あえて社会貢献を前面に押し出さないのも、「先入観なく商品を手に取ってほしいから」。

「『支援すべきだから』ではなく、『魅力的だな』『あの人に贈りたいな』と純粋に商品を気に入って、お買い上げいただきたいんです。そのほうが結果的に多くの方に支援していただける。ソーシャルアクションだからこそ、持続可能なビジネスとして成功しなければならないんです」

アフリカで直面した“本質的でない”経済支援

銅冶さんがビジネスの成長にこだわるのには、自身のファーストキャリアも影響しているのかもしれません。

慶應義塾大学でアメフトに打ち込み、就職活動では早々にテレビ局から内定をもらったにもかかわらず、当初まったく志望していなかったゴールドマン・サックスの選考プロセスに進み、そのまま入社を決めました。決め手は「人」だったといいます。

「外資系ですから、一緒に働く見込みのある社員70人全員と面談をしたんです。朝から晩までみっちりいろんな方と話して、それぞれ個性豊かで人間性はバラバラでしたが、ただ『日本一、世界一のチームになる』『一番稼ぐチームになる』という点で一致団結していました。そこに痺れたんです。

英語も苦手だし、金融にも興味はありません。でも、ここで社会人としてのスタートを切れたら、自分の苦手なことを克服できるかもしれない。彼らの『絶対に勝つ』というパッションに触発されて、自分自身も成長できるのではないかと考えました」

こうしてゴールドマン・サックスへ入社し、金融法人営業部に配属された銅冶さん。当時、早朝からの長時間勤務に英文メール数百通への返信、社内で飛び交うビジネス英語……入社初日で辞めることを考え、一時は体調を崩し、あわや休職という状況にも陥ったといいます。

心の支えとなったのは、アメフト部時代の監督からの「我々がチームで成し遂げたことは並大抵のことではない。そのプライドを忘れるな」という言葉と、「目の前の人に喜んでもらいたい」という強い思いでした。

「英語もできない、金融商品の知識も豊富ではない自分が、いかに存在価値を発揮できるかを考えたとき、誰が何を求めているのかをつねに考え、誰かのためにすぐアクションするのが重要なんじゃないか、と。

自分の苦手なことを頑張るのも大切ですが、社内外のスペシャリストたちに『銅冶が言うなら』とサポートしてもらえるような存在になるのも大切なんです。そのほうが着実に目標を達成できますしね。結果的に『一緒に仕事できてよかった』『ありがとう』と喜んでもらえることが、僕にとっていちばんのモチベーションになっていました」

多忙を極める中、銅冶さんは在職中の2010年にNPO法人を立ち上げます。アフリカへの思いは、大学の卒業旅行でひとり訪れたケニアで見たある光景がきっかけでした。

さまざまな支援団体や法人が学校を設立するものの、その多くが数年も経たずに潰れていく。性教育を目的に配布されたコンドームの多くが捨てられている……「支援する側のエゴ」に終わっている現実がありました。

「スラム街の劣悪な環境で暮らしている人々にもカルチャーショックを受けましたが、何より世の中で“良いこと”とされているアフリカ支援の多くが、本質的な課題解決になっていないことに衝撃を受けました。彼らの生き方、考え方……彼らの国を尊重せずに、先進国の価値観を押し付けるような支援が成り立ってしまっていたんです」

NPO法人設立からほどなくして、東日本大震災のボランティアに携わったことも、支援のあり方を方向づけました。現地入りした銅冶さんは震災直後の混乱のさなか、避難所や被災者ごとに異なるニーズに、思うように対応できなかったことに悔いが残ったと言います。

「アメフト部の監督にトラックを手配してもらって物資を運んだのですが、事前に現地の希望を聞いていたにもかかわらず『布団はもう足りています』『防寒具はあります』と、食い違ってしまって。つい『せっかく来たのに……』なんて思いがよぎったとき、アフリカでの経験と重なったんです。

どうして現場の人々が本当に望んでいる支援につながらないのか、現場の声が届かないのか。現地の価値観や文化を尊重し、現場の人々と何が必要なのかを考え、共につくっていく。これからはそんな支援をすべきなのではないかと考えました」

銅冶さんは、ゴールドマン・サックスでの仕事と並行して、NPO法人の活動に従事。毎年9日間の休暇を取ってケニアやガーナへ足を運び、現地の公的機関や行政と協働して、公立の学校として継続的に運営する仕組みをつくりました。

“ものさし”は一つではない

7年間の会社員生活を経て、アフリカでの活動に軸足を移すべくゴールドマン・サックスを退職後、2015年に株式会社DOYAを設立した銅冶さん。アパレルブランド「CLOUDY」を立ち上げたのは、学校卒業後に働く場所がなく、生活のために娼婦となる女性が少なくなかったからだといいます。

「まず『女性に雇用を』というのが目的で、アパレルに着目したのは偶然に過ぎませんでした。アフリカンファブリックはある種、彼らの生活に根付いた表現であり、象徴とも言える素晴らしい文化です。

アフリカでビジネスするなら、そこで暮らす人々を尊重し、その素晴らしさを伝えられるものにしたい。市場にはまだあまり出ていないアフリカンファブリックの可能性を感じました。街なかでよく縫製仕事をする女性たちを見かけていましたし、一定の技術を身につけている人も多いだろう、と」

けれどもアパレル製造を始めてから直面したのは、考え方や価値観の大きな違いでした。遅刻しても悪びれないこと、勤務時間中でもかまわずにみんなで談笑し、時には踊り歌い出すこと……仕事場にあるミシンを勝手に売ってしまうこともたびたびあったのだそう。

真面目に働くことを是とし、効率性や生産性を追求するわたしたちの“常識”とは、まったく異なります。

「仕事道具であるミシンを売るなんて、あってはならないと思うかもしれません。でも彼女たちがこれまで生きてきた人生を考えれば……、自分も同じ立場に置かれれば、そうするかもしれない。

彼女たち、彼らの生き方を尊重し、ゲラゲラと笑う楽しそうな様子を見ていると、むしろ僕らが固定観念や“あたりまえ”をリセットすべきなのでは、と。ものさしを彼らとともにつくっていくことの大切さに気づけたのは、僕にとっての成長でもありましたし、そのプロセスを通じて彼女たちの成長にもつながっているのではないかと感じます」

「“あたりまえ”をリセット」したことで、新たなプロジェクトも生まれました。生産拠点の開設当初、商品として売れる品質基準に達したものはわずか5%ほど。その大半がB級品になってしまったことを逆手に取り、生産工程で生じた不完全な品をリデザインし、価格をお客様自身に決めてもらう「I’m NOT perfect」というイベントを開催しました。

「『5cmの四角形を作って』と指示したのに、50cmの四角形ができあがったりして(笑)。ビックリすることがたくさん起こるんですけど、それもまた味なんじゃないかと思えて。生産工程で不良品が出たら、廃棄するのがあたりまえだけど、見方を変えれば世界に一つしかないものだし、もしかしたらもとの商品より価値のあるものかもしれない。

日本で暮らしていると、周りを気にしながら生きるのがあたりまえで、みんなが良しとしているものが良しとされ、自分自身の判断基準が確立されにくくなってしまっている。だから、自分で価値を決めることで、新たな気づきにつながればいいなって。『あの人はいつもダメだな』『なんかちょっと変だよね』と仲間はずれにするのではなく、『これもアリだね』と言える勇気を持つことが大切なのではないでしょうか」

アフリカの人々に学ぶWell-being

貧困や失業、劣悪な衛生環境……「アフリカ」と聞くと、わたしたちはそうした困難や課題を思い浮かべてしまいがちです。日本をはじめ欧米諸国が先進国で、ケニアやガーナは発展途上国だ、と。

資本主義社会における“ものさし”で考えれば、それもまた真実です。けれども銅冶さんは、アフリカの人々とともに働き関わるなかで、Well-beingについて考えを改めることも多いといいます。

「初めてケニアに降り立ったときに感じたのは、僕らよりもよっぽど笑っている人たちがいるじゃないか、ということ。日本は物や情報であふれかえっていて、僕らは周りを気にしながら、常に誰かと比較して生きている。それが果たして幸福なんだろうか、と。

以前、現地でスマホの電源が切れてしまったことがあったんです。どうしよう、写真もたくさん撮りたいのに……ってあたふたしていると、近くにいた小さな子どもが笑って、こう言うんです。『大丈夫だよ、目がある。目で見ればいい』って(笑)。彼らの生き方、考え方、幸せの見つけ方……僕らより優れている点がたくさんあるんです」

人口増加と経済発展を続けながらも、労働者の約90%がインフォーマル・セクター(非正規労働)で働き、経済格差が拡大しているアフリカ。銅冶さんはこれまでにケニアとガーナに7つの学校を開設し、ガーナで600名以上もの雇用を創出し、目覚ましい成果をあげています。日本でもその取り組みが注目され、ANAやUNITED ARROWS、オカモトなど大手企業とコラボレーションするなど、賛同の輪は広がっています。

「目の前の人に喜んでもらいたい」。その一心で取り組んできたことは、ゴールドマン・サックス時代も今も変わらず一貫していると言います。なぜそれほどまで強い“利他”の気持ちを持てるのでしょうか。銅冶さんはてらいもなく、こう言います。

「人のため、という感覚はあまりなくて……『目の前の人に喜んでもらいたい』と思っているのはあくまで僕自身で、僕がやりたいからやっている。利他的に見えるかもしれませんが、結局自分がやりたいと思うことをするためなんですよ。目の前の人に喜んでもらうために力を尽くすのが、僕がいちばん好きなことなのかもしれません。

ただ、最近思うんです。はじめは『彼らのために何かしてあげたい』と思っていたはずなのに、年々『一緒にやってやろうぜ!』って、チームメイトのような感覚が強くなってきて。彼らと過ごしていると、自分の直さなきゃいけないところ、もっともっと成長できるところを見つめ直せる。僕らのほうが変わらなければならないな、と。この歳になってもそう思えるのは、本当に幸せなことだと感じています」

貯蓄がある、好きなものを好きなときに買える、社会的地位がある……そうした決まりきったものさしで幸せを測るのではなく、自分自身の判断軸で考える。アフリカの人々から学べるのは、「自分の幸せは自分で決める」というスタンスなのかもしれません。

(執筆:大矢幸世/撮影:小野奈那子/編集:ノオト)

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Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。