2023.03.17

AIと MaaS(Mobility as a Service)が描くウェルビーイングな未来とは

IT先進国フィンランドの例に学ぶ
国連が発表している『世界幸福度報告』で5年連続1位のフィンランド。ウェルビーイングを価値観の中心に据え、手厚い医療補助や無償教育、多様で柔軟な働き方などを実現した政策は日本でもよく知られているところです。そんなフィンランドでは近年、「IT先進国」として情報技術を活用したウェルビーイングの追求が進んでいるそうです。今回はその一端をご紹介します。

要約すると

  • 幸福度世界1位のフィンランドでは、個人IDを活用した行政サービスが進んでいる

  • フィンランド国民は「個人の監視」という不安よりも、「利便性の向上」にメリットを感じていた

  • フィンランドをはじめに、各国で進むMaaSは、街づくりの在り方も変えていた

フィンランド共和国(Republic of Finland)

  • 面積 33.8万平方キロメートル(日本よりやや小さい)

  • 人口 約551万人(2018年12月末時点)

  • 首都 ヘルシンキ

  • 言語 フィンランド語,スウェーデン語

  • 主要産業 紙・パルプ等,金属,機械,電気・電子機器,情報通信

  • GDP2,753億ドル(2018年、IMF)

  • 通貨 ユーロ

外務省による基本データより抜粋)

ウェルビーングな暮らしを支える、フィンランドのデジタル行政サービス 

日本でも行政の効率化、国民の利便性向上などを目的に個人識別番号(個人ID)である「マイナンバー制度」が2016年に導入されました。しかしマイナンバーカードの申請率2022年11月で6割ほど。民間での利活用も発展途上にあります。 

一方でフィンランドは、1960年代から全国民に個人IDが記載されたカード「Kela Kortti(ケラ・コルッティ)」を発行。個人IDは、出産や育児、医療補助、教育支援など社会保障分野を中心に行政サービスとひも付けられ、現在は幅広い民間企業との連携も行われています。さらに2010年代に入ると、オンラインサービスも開始。今や「Kela Kortti」の所有者は行政手続きのほぼすべてをオンラインで行うことが可能になっています。

個人IDが銀行や携帯電話会社といった民間企業と共有されているため、住所変更なども一回のオンライン申請で自動的に連携機関に反映。個別の手続きも物理的な手間もありません。近年は「Kela Kortti」をヘルスケア分野に活かす動きも進み、個人IDにひも付いた電子カルテや処方箋などの情報を医療機関が共有することで、患者の診断や健康管理などに役立てられています。

AIが先回りしてライフイベントを予測。プッシュ型で行政サービスを提案する「Aurora AI(オーロラAI)」

基礎的な行政サービスのデジタル化が進んでいるフィンランドにおいて、AI技術による新たな行政サービスモデル「Aurora AI(オーロラAI)」の開発が進んでいます。目的は、さらなるウェルビーイングの実現。 

「Aurora AI」は、進学、就職、結婚などの膨大な個人データから今後のライフイベントを予測。一人ひとりに対してプッシュ型で最適な行政サービスを提案するデジタルプラットフォーム。人々の困りごとに対応した最先端の「プッシュ型福祉サービス」として、世界各国から注目されています。

政府の個人情報活用は「国民の監視」なのか。フィンランド国民の本音とは? 

膨大な個人データを背景にした「政府による国民の監視」という不安を感じる人もいるはずです。しかし、経済協力開発機構(OECD)の調査によるとフィンランド国民の政府に対する信頼度は、なんと加盟国中2位。政府への信頼が高いから、センシティブなデータであっても利活用が進めやすい。その結果提供される行政サービスの質が高いから政府への信頼が高まる。そんな好循環が、フィンランド国民の高い幸福度につながっているのかもしれません。 

フィンランドが進めるこのようなAI活用は「人間中心のAI」とも言われ、人間の役割を置き換える AIではなく、人間をサポートするAIと位置づけられています。人間の能力や創造性を向上させることを目指すこの考え方は、日本のAI活用の方針としても採用されています。 

フィンランドが提唱する「MaaS(Mobility as a Service)」 

「MaaS(Mobility as a Service)」とは、電車やバス、タクシー、飛行機などのあらゆる交通サービスをひとつのモビリティサービスに統合することで利便性を向上させようというもの。2000年代初頭よりフィンランドで研究が進められてきた移動の新たな概念です。 

フィンランドはMaaSの発祥国として2017年に、世界初のモビリティアプリ「Whim(ウィム)」をリリース。電車・バスだけではなく、自転車やシェアライド、レンタカーまで、多様な交通手段から利用者に最適なルートを提案、その支払いまでを一括で行えるようになっています。さらに、バスやタクシーを定額で利用できるプランもあることから、「Whim」は利用者の移動の自由度を広げ、また実際に公共交通機関の利用者が増加するなど、行動変革を促す効果もありました。 

各国で導入が進むMaaS。ウェルビーイングな未来の街づくり切り札か 

MaaSは現在、交通問題対策だけではなく、ウォーカブルでウェルビーイングな街づくりの要として各国で取り入れられている概念でもあります。 

たとえば、すでにフランス・パリで進められている「15-minute city」構想。あるいはアメリカ・フェニックスでも、駐車場をなくす代わりにMaaSを活用した新規都市開発が2022年から始まりました。住民には公共交通の無料チケットや電動キックスケーターなどが用意され、従来は自動車が占有していた土地を広い歩行空間やコミュニティスペースなどに転用することで、住民の健康やQOLの向上を実現しようとしています。 

もともとウェルビーイングという考え方は、福祉や医療などの分野で使用されていました。しかし、近年では行政サービスやビジネス、街づくりをはじめとする社会全体で、広く重要な要素となっています。フィンランドが進めている、ITを活用した複合的なウェルビーイング政策は今後、各国に波及していきそうです。  

画像素材:PIXTA 

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Well-being Matrix編集部
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