名曲「上を向いて歩こう」からロック、フォークまで、歩くシーンが出てくる音楽は少なくない。
歩くシーンのある音楽は、実際に歩くテンポにも合いやすい。
ウォーキングは運動の中でも最も手軽にできる健康法の1つ。
映画『となりのトトロ』のオープニング曲としても知られる「さんぽ」。タイトルや歌い出しから分かるように歩く描写が盛りだくさんですが、改めてウェルビーイングの観点から歌詞を読み解くとどうでしょうか。
作詞者の中川李枝子が福島県福島市にある信夫山をイメージして書いた、という逸話があるように、豊かな自然の中を動植物たちと触れ合いながら歩いていく内容となっています。また、曲中の人物は歩くことが大好き。曲の最後には道中で見た生き物たちを「友だち」と表現し、出会いを喜んでいます。これだけで十分にウォーキングがポジティブなメンタリティに結びついていることが想像できる歌詞になっています。
ちなみに、都会の道を歩くよりも、自然の中を歩くほうがストレスレベルが下がり、リラックス効果があるという実験結果もあるそうです。
舟木一夫が歌う「歩いて行こうよどこまでも」は、1965年に発売されました。
今でも健康のためには1日1万歩ほど歩くのが良いとされていますが、この曲の発売当時のジャケットを見ると、タイトルの前に「万歩運動の歌」と書いてあり、“1日1万歩”を呼びかけるための歌だったことがわかります。一方で、タイトルの「歩いて行こうよ」という文言や「ランランラン」といった表現から、ウォーキングを辛いトレーニングではなく、中川李枝子作詞の「さんぽ」と同じく、楽しいものとして捉えていることも伺えます。
歌詞を見ても、若さを歌うようなストレートな表現が目立ちます。1965年と言えば日本は高度経済成長期の真っ只中で、国民の摂取カロリーが急激に増加していたという時代背景もあるそうですが、まさにウェルビーイングとウォーキングが結びついた歌と言えます。
「アルクアラウンド」はロックバンド、サカナクションのブレイクのきっかけとなった曲。タイトルは「歩く」や「around(周囲を)」、「look around(見回す)」といった言葉が組み合わさった造語だといい、曲中では、あてもなく歩き回る様子が描かれています。
歌い出しからAメロにかけて「歩く」というフレーズが5回も繰り返し登場し、1番の最後は「また歩き始める」で締められますが、文学的で、具体的にどれだけ歩いたのかという描写はありません。さらに2番は“ぼく”と“きみ”の恋愛とも取れる内容なのですが、それらが折り重なって、“悩み葛藤しながら生きていく”こと自体を「歩く」と表現しているように感じられる歌詞になっています。
ちなみに、この曲のMVではフロントマンの山口一郎が夜に歩きながら歌うのですが、同じようにこの歌をBGMに歩きたくもなる1曲です。
言わずと知れたこの名曲。坂本九のシングル曲「上を向いて歩こう」もサカナクションの「アルクアラウンド」と似たように、「歩く」という行為が、歌詞の中で生きていくことの比喩的として用いられている曲です。
しかも冒頭から、涙を堪えるために1人で歩くという物悲しい様子が描かれます。それが曲の中盤では上を向くことで幸せが見つかるというニュアンスが提示され、堪えきれなかった涙も、悲しみも、少しずつ消えていくような表現がされるのです。
これはつまり、涙がこぼれること自体が問題なのではなく、悲しいことがあっても前向きにいることが重要なんだ、というウェルビーイングな生き方に繋がるメッセージと取れるのではないでしょうか。
「生活の柄」は1971年、高田渡がリリースしたフォークソングで、いきなり歩き疲れた人物が野宿をするシーンから始まります。この人物は自身を「浮浪者」と表現するのですが、強く訴えたいのは、なぜかピースフルな雰囲気を帯びている、ということなのです。メロディと高田渡の声の暖かさも相まってネガティブなだけには聴こえない曲です。実際に放浪生活を送っていた時代があるという詩人の山之口貘が作詞を手掛けただけあって、歩き疲れては野宿をし、季節が巡って肌寒くなってきたため眠れなくなる、という様子を淡々と描く歌詞も非常に詩的。そこに込められた意図に関しては解釈が分かれるところでしょうが、自分らしい人生とは何だろう、と考えさせられるような魅力のある曲と言えます。
このほかにも、「歩く」というワードが歌詞に入っている曲はたくさん見つかります。そして“歩く音楽”はウォーキングのBGMに合うテンポのものも意外と少なくないので、ぜひ自分にとって歩きやすい曲、指針となる曲を探してみてください。
画像素材:PIXTA