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2024.02.28

3月8日は国際女性デー

―女性の健康課題は一人でガマンしないのが普通に―
3月8日は国際女性デーです。日本におけるジェンダーギャップランキングは長年先進国の中でも最下位が続き、昨年2023年も142ヶ国中、125位という結果でした。実は健康と教育は比較的高く、健康においては59位という成績を収めています。健康医療制度が充実しているおかげで質の高い医療を多くの人々が受けられるのが大きな理由のひとつです。しかしながら、生理、PMS、妊娠・出産、更年期等、女性特有の健康課題に関してはまだまだ理解が進んでいないのが現状です。質の高い医療が行き届いているにも関わらず、婦人系の通院率は依然低い状況です。例えば更年期の症状を一つでも感じている女性の「病院に行っていない」割合は40 歳代で 81.7%、50 歳代で 78.9%*と、多くの女性は症状があっても病院に行っていません。このような事態をまねいている仮説として二つ考えられます。ひとつは女性特有の健康課題の多くが、当事者意識として「閉じた」課題であること。生理や更年期のことなど家族や職場の人には言いにくい、言っても理解されにくいといった社会的偏見(スティグマ)の強い課題であることが考えられます。今まで私が行った不調を抱えた女性に対するインタビューでも、不調は「ガマンすれば通り過ぎる」という話を数多く聞きました。もうひとつは閉じた問題であるがゆえに、当事者以外、男性含め社会の理解不足が続いているということ。このような閉じがちなテーマにおいて、女性特有の健康課題が職場や社会の理解が浸透するには何が必要かを調べてみました。
*厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」2022.07

7割以上が女性特有の健康課題や不調がある 

生理痛や妊娠・出産、更年期等の「女性特有の健康課題や不調」の有無について聞いたところ、「現在感じている」と「過去感じたこともある」合わせて73.4%いることが分かりました。不調を経験したことの女性が大多数であることがこのデータを持って明らかになりました。

【女性特有の健康課題や不調の有無】 

不調になった女性の約7割は誰かに状況を共有。4割はパートナーや職場の人等周りの人に共有している。 

女性特有の健康課題や不調を経験したとき、40.8%は周りの近しい人や職場の人と共有しています。次に高いのは「医師などの専門家」で28.1%という結果でした。多くの人が医者よりも近しい人や職場の人達と共有しているのが特徴的で、婦人科クリニックや病院に行くハードルが高いということがこの調査でも明らかになりました。一人でガマンしているのは31.1%と実は少数派。フェムテックが注目を浴びるなど、女性特有の健康課題に対する社会的認知が高まり、生理や妊娠等について、周りに話しても大丈夫だと思う人が増えたという意識の変化が生まれているのではないでしょうか。

【女性特有の健康課題を感じたときに取った行動】

不調を共有した人は、ほぼ全員良い変化が訪れる。

そしてこんなデータも。女性特有の不調を親しい人や会社関係者に共有した人の、なんと98.1%が、共有して良い影響があったと回答しています。長年生活者リサーチをやっていますが、こんな数字みたことがありません…。

【不調を共有したときの影響度】

具体的にどんな良い影響が訪れたのか、実際の声をいくつか見てみましょう。

  • 生理中は痛みや出血量を夫に伝え、月経痛もあるのでなるべく家事や育児を代わりにやってもらうようにお願いしている。生理前後のPMSも酷いのでその場合は「ホルモンバランスが崩れていてイライラしてしまうからなるべくそっとしてほしい、あなたにもイライラさせてしまうかもしれないから先に謝っておく」と話している(24歳)

  • 月経や妊娠出産による変化を話し、家事を代わってもらったり、仕事内容を変更してもらった(29歳)

  • 友達に症状を話したところ、彼女も同じような症状に悩んでいて、おすすめの病院や漢方などを教えてもらった。(48歳)

  • 更年期の症状を先輩の友人に相談した。先輩の経験談を聞いて安心した記憶がある。他に同年代の友人と更年期について情報交換したのも気持ち的に楽になった。夫には更年期だからごちゃごちゃ言わないで、と釘を刺した。(64歳)

  • 人には普段言わないが、実は話すとみんなそれぞれ悩みをもっていることがわかった。自分のことだけだと思っていたが恥ずかしくなった。考え方をかえたらすごく楽になった(82歳)

「話したら気が楽になった」「仕事や家事融通をきかせてもらった」「ケア方法に関するアドバイスをもらった」等、不調について共有すれば周りの人々がサポートしてくれた、というのが良い影響となっているようです。

不調を周りの人に共有している女性は、幸福度が高い。 

不調を周りに共有すればよい影響があるだけでなく、幸福度も高いことが分かりました。比較的高い点数である8点以上の割合で比較すると「パートナーや家族職場の人に共有(62.4%)」と一番高く、「医師など専門家に相談(44.0%)」よりも幸福度が高いという結果でした。「一人でガマン(19.3%)」の幸福度はこの中で最も低い結果に。PMSや妊娠等、パーソナルな事情を話せる相手は良い関係性にあること、少なくともいがみ合っていないことがベースであると考えると、話しやすい人間関係を持つ環境にいるからこそ幸福度は高いという読み方もできるかと思います。 

【幸福度:女性特有の不調時に取った行動別で分析】

「女性特有の健康課題や不調に関する理解がどの程度進んでいるか?」については男女の見解に差がある

この時点で「不調があったら話しちゃえばいいじゃない!」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、ちょっと待ってください。先ほど共有しやすい環境も大事、とお話ししました。話しやすい環境とは、女性特有の健康課題や不調に関する理解が進んでいるか?というところに大きく関わってくると思います。ここからは、女性特有の健康課題についての理解がどの程度進んでいるか、男女で比較しながら見ていきましょう。

【女性特有の健康課題における理解浸透度】

全てにおいて男性の方が女性よりも「理解が進んでいる」割合が高い。言い換えると女性の方が、男性と比べて進んでいないと答えています。特に「職場やアルバイト先の理解(9.3pt)」と「男性の理解(11.3pt)」においてギャップがあり、男女の見解に差があることが見て取れます。

男女ともに8割以上が「不調がある本人と同じようには理解できないが、理解する努力は続けたい」と思っている

理解浸透に関する認識において、男女差があることは見えてきました。もう少し具体的にこのテーマに関する意識についてみていきましょう。

【女性特有の健康課題に関する意見】

ちょっと複雑なグラフなので、3つの点にフォーカスを置いてご説明します:

男女ともに高い項目(男女それぞれ80%以上ある項目)

  • パートナーや友人同僚等が不調になったときに自分でできるサポートはしたいと思う。

  • パートナーや友人、同僚等周りの人の理解が進めば、女性がより生きやすくなると思う。

  • 不調を理由に仕事や家事を休むことは、大切だと思う/認められることだと思う

  • 不調がある本人と同じようには理解できないが、理解しようとする努力は続けたい。

女性の方が高い項目(女性―男性で+5.0pt以上ある項目)

  • 不調がある本人でなければ理解に限界があると思う(+12.6pt)

  • 一人で悩んだりガマンする時代ではないと思う(+6.3pt)

  • 国や社会の理解が進めば、女性だけでなく、男性も生きやすくなると思う(+5.2pt)

男性の方が高い項目(男性-女性で+5.0pt以上ある項目)

  • よかれと思ってサポートとしてやったことが、裏目にでてしまいそうで怖い(+8.0pt)

  • 不調がある本人に話したりするのは気が引ける(+6.0pt)

男女ともに高い項目の内容は、女性の不調に対してサポートしたいし、体調によっては休むことも認められる世の中が理解を深めるうえで大事であるというところです。特に男女の8割以上が「理解できないけど、理解する努力は続けたい」と回答しており、理解する姿勢を持ち続けたいという気持ちは共通であることが分かりました。その反面、男性の方が高かった項目として「よかれと思ってサポートとしてやったことが、裏目にでてしまいそうで怖い」「不調がある本人に話したりするのは気が引ける」等が挙がってきています。本当は理解したいし、サポートもしたいけれど、本当に女性にとって意味のあることになるか、逆に傷つけてしまわないか心配という、男性の複雑な心境(アンビバレントな気持ち)が垣間見えました。

女性の健康課題における社会の理解推進に必要なことは、サポートと感謝の示しあい

不調のある女性を理解する気持ちを持ち続けたいという男女の気持ちは見えてきました。ではさらに女性特有の健康課題に対する理解を家族から社会まで広げていくために何が必要かに関して聞いてみました。こちらも女性で高かった項目、男性で高かった項目を比較して見ていきたいと思います。

【女性特有の健康課題の理解を浸透させるために必要なこと】

女性回答ランキング(TOP1で上位5位まで)

男性回答ランキング(TOP1で上位5位まで)

女性の回答で高かった項目として「パートナーや同僚など、周りが不調に関する理解を示したら、本人も感謝を示すこと(42.3%)」が一位でした。分かって欲しい、だけでなくわかってくれたら感謝の意を示すということも周辺や社会の理解を高めるにおいて大事だと思っているようです。一方男性で高かった項目をみると「女性だけでなく男性、社会全体で理解を示す態度(36.5%)」「気軽に相談できる医者や専門家へのアクセス(34.9)」「パートナーや友人、同僚等、周りができる限りのサポートを行うこと(34.3)」が続きます。男性は理解とサポート、女性は感謝の意を示すことが社会全体の理解を促進するために大事であることが今回の調査で明らかになりました。

初潮から閉経まで、女性のライフステージに伴い様々な健康課題や不調が付きまといます。今まではこれらの不調を「閉じた」課題として一人でガマンしてやり過ごすのが一般的でした。結婚しても子供を産んでも働き続ける女性が多数となり、M字カーブが解消されつつある現代において、女性の健康課題が経営課題や社会課題として捉えられるようになりました。生理やPMS等メディアでも取り上げられる機会も増えた昨今において、生活者意識も閉じた課題から、つらくなったら周りに相談して一緒に乗り越えていく方が、周りにとっても自分にとっても良い影響を及ぼすということが今回の調査結果でわかりました。男女双方が理解しようとする意識を持ち続けることが社会における理解浸透の近道となる。人生100年時代のウェルビーイングを叶えるには健康課題を閉じた問題にせず、親しいひとや職場、社会に安心して話せる環境作りが重要であることが可視化された貴重な調査となりました。

【100年生活者調査 ~女性特有の健康課題篇~】

■調査目的 :女性特有の健康課題に関する行動や意見についての知見を得る

■調査手法 :インタネットモニター調査

■調査日時 :2024年1月

■調査対象者 :20代-80代の男女 728名

■調査会社 :株式会社 H.M.マーケティングリサーチ

プロフィール
研究員
安並 まりや
2004年博報堂入社。ストラテジックプラナーとしてトイレタリー、食品、自動車、住宅・人材サービス等様々な業種のマーケティング・コミュニケーション業務に携わる。2015年より新大人研のマーケティングプランナー兼研究員として、商品・コミュニケーションプラニングや消費行動の研究に従事。2019年より新大人研所長に就任。共著に『イケてる大人 イケてない大人―シニア市場から「新大人市場」へ―』(光文社新書)