2023.12.25

瞑想はどうやって「幸せ」を運んでくるのか

心理学調査から見たマインドフルネスとウェルビーイングの違い

要約すると

  • マインドフルネスとウェルビーイングとの間には関連性がある。

  • この関連性は、自分の意識を向ける矛先を柔軟に操れるようになる「注意制御機能」によって調整される。

  • 注意の制御機能は瞑想訓練で向上する可能性がある。

心も体も健やかで幸せに暮らしたい、そんなウェルビーイングへの希求からでしょうか。近年、ヨガやピラティス、ランニングなどの様々なアクティビティが巷で人気を博しています。そのうちの1つが瞑想(マインドフルネス)です。かのスティーブ・ジョブズが実践し、グーグルやナイキといった企業も研修に採用していたことから、日本でも逆輸入的に注目を浴びています。 

 そうしたなか、マインドフルネスとウェルビーイングの影響関係に着目したある調査から、マインドフルネス、特にそのなかでも重要な役割を果たしている「注意の制御の柔軟性」がウェルビーイングの向上に寄与していることが明らかとなったと言います。 

 ウェルビーイングの2つの側面 

その調査とは、広島大学大学院総合科学研究科の高田圭二、田中圭介、竹林由武、杉浦義典が心理学を受講する大学生145名を対象に実施したもの。2016年に「マインドフルネスとwell-beingと注意の制御の関連」として分析結果をまとめた論文が発表されています。 

 この研究では「ウェルビーイング」について、二つの考え方を採用しています。それは主観的ウェルビーイング(SWB)と心理的ウェルビーイング(PWB)です。主観的ウェルビーイングはポジティブな心の動きの多さや人生に対する満足感など主観的に快である感覚をウェルビーイングと捉える考え方。もう一つの心理的ウェルビーイングは、心理学の様々な理論から導かれた、心理的に良好な状態をウェルビーイングだと捉える考え方です。例えば,人生に対して目標を持っているということや,自分が人格的に成長しているという感覚を得ている状態をウェルビーイングとしています。 

 マインドフルネスかどうかを測る因子 

また、「マインドフルネス」も多面的で、複数の要素で構成されています。  

マインドフルネスの測定手法として採用されているのがFive Facet Mindfulness Questionnaire(FFMQ)です。FFMQではマインドフルネスを、①体験の観察、②描写、③自覚的な行動(その瞬間に行っている行動への気づき)、④判断しない態度、⑤反応しない態度という5つの因子に分けて測定します。これは先行研究においても広く採用され、たとえば「体験の観察はSWBやPWBとの関連」が報告されています(高田ら、2016)。 

 さらに別の先行研究では、「その瞬間の体験に集中できているか」を測定。「その瞬間の体験とは無関連なことを考えていると、その瞬間の体験から得られるwell-beingが減少する」と示されています(高田ら、2016)。 

 ウェルビーイングの鍵は注意のコントロールにあり 

そこで高田らの研究チームは体験に集中するためのスキルとして、注意機能、さらにそれをコントロールできる力に着目しました。注意機能とは、多くの情報からあるものに意識を向け集中することによって、それをより深く観察し、より強く記憶にとどめる働きのこと。 

 そして分析の結果、まず、この働きを制御できると、FFMQの1つ「体験の観察」の質が高まり、主観的ウェルビーイングも高めることが明らかになったと言います。つまり、「必要に応じて集中したり注意を切り替えたりする能力」(高田ら、2016)がウェルビーイングの向上につながるというのです。 

 瞑想体験が「注意機能」を高める 

今回の研究ではまた、注意制御機能が間接的に心理的ウェルビーイングの向上に関係していることも明らかになりました。 

 これもまた先ほどと同様、影響はあくまでも間接的だということがポイント。FFMQの別の因子「描写」の能力が高まり、それによってPWBにも影響を与えるというメカニズムです。描写とは「自身の感情や思考などを言語的に表現することができる」(高田ら、2016)こと。このような態度は良好な対人関係の構築や自己理解につながり、その結果として心理的ウェルビーイングの向上に貢献するそうです。 

 では、注意を切り替える力、注意機能の柔軟性はどうすれば高まるのでしょうか。 

 その答えの1つが瞑想訓練です。マインドフルネスを目指すための瞑想では妨害する思考や出来事があっても、自分の体験に注意を向けるよう促します。高田らの研究チームは、これが、意識が特定の刺激に引きつけられてもまた向け直すという注意制御機能を向上させるのでないか、と結んでいます。 

 マインドフルネスがもたらす効能は無数にありますが、健康で幸福な状態を目指すために行うのであれば、集中する対象や注意の矛先を自在にコントロールすることを心がけてみるのもいいかもしれません。 

クレジット 
引用論文:マインドフルネスとwell-beingと注意の制御の関連(2016、https://doi.org/10.2132/personality.25.35) 
画像素材:PIXTA 

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