2023.08.28

ウェルビーイング図鑑 Vol.2自分が自分でいられる、心地よい生活を送ること。そのためにはサーフィンのように、嫌なことも乗り越えていく術を身に着けることこそが、大切。

小池きょうこさん(68歳)にとっての 「ウェルビーイング」
PROFILE
お名前:小池きょうこさん
年齢:68歳
居住地:神奈川県在住
家族構成:夫、子供3人(3人とも独立)、孫2人(別居)
職業:スポーツ施設受付を月の半分、20年継続

普段の生活

家事以外の時間は、大好きな犬の散歩と、英会話に、習い事に、読書に…と好きなことに打ち込む

「週6で勤務する夫の出勤時間に合わせ、朝5:45頃に起き、朝ごはんとお弁当の支度をします。 普段は、朝ごはんを一番しっかり食べるので、朝に手際よく用意するためにも前夜から用意のイメージトレーニングをしています。」 夫を送り出してから、夕方の出勤までは小池さんの時間となります。 「私は家の中の家事を担当していますが、家事以外の時間は6年継続している英会話レッスンを一日25分受け、海外ドラマを見たり、読書をしたり、愛犬の散歩に行ったり…。 仕事の時は、夫の夕ご飯は置いて、早めに夜ご飯を食べます。最近は、腹持ちのよいオートミールをお米に混ぜて食べています!仕事は17時~21時まで。帰宅後、23時までにはお布団に入るようにしています。」

日常の中のポジティブ感情・ネガティブ感情

日常に沸き起こる感情がウェルビーイングを押し上げたり、または逆に阻害する要因にもなると考えられます。普段生活を送るなかで、どんなときにポジティブな感情、ネガティブな感情が沸くのか?お伺いしてみました。

ポジティブな感情

日々のポジティブな感情として、ご家族と過ごす時間を挙げてくださいました。小池さんご自身、お子さんのご誕生を待望しており、とても愛情を注いでいたので、お孫さんと過ごす時間もこの上なき幸せと感じていらっしゃるようです。 また、歌「熱き心に」に限らず、日常の中でたくさんのわくわくを見つけていらっしゃいました。小池さんが“わくわく感は元気の源”とおっしゃるように、日々の小さなわくわくがウェルビーイングに良い影響を及ぼしているようです。

ネガティブな感情

今回、ネガティブな感情を1つ挙げてくださいましたが、実は小池さんは、ご自身がネガティブな気持ちにならないように、ゴシップや噂話など面倒だったり気持ちが暗くなることには意識的に近寄らないようにしており、その結果、いまは腹が立つことはほとんどないそうです。 小池さんも、お孫さんが生まれる6年前程までは、怒りや悲しみを感じることもあったそうですが、そういった感情をたくさん経験してきたからこそ、気持ちを切り替え、うまく交わす方法を覚えたとおっしゃいます。

ウェルビーイングの構成要素

ウェルビーイングを「自分が自分でいられる、心地よい生活を送ること」と定義した小池さん。そんな彼女のウェルビーイングは、まさに、どんな時でも自分を包み込んでくれる環境や人との関係性、日々のなかで新たな自分を発見していくための取り組みによって構成されていました。“愛情を注ぎ、愛情がかえってきている存在”“心地よい環境をつくり心身を整える”“わくわく探し”の3つに分けて、ご紹介いたします。 自ら愛を注ぐことで、愛し返してくれる大切な存在を築き上げる

家族を中心に、ペットにも、住まいにも、 ありったけの愛を自ら注ぎ続けることで、かけがえのない存在を築いていらっしゃる様子がうかがえました。家族のことを思って食事を用意し、小さなことでも「ありがとう」と言い合い、家を整え愛情をかける…小池さんが愛にあふれている背景には、お話をお伺いしているとご両親に愛情を注がれていた記憶があるからということがわかりました。ご両親からの無償の愛が、あらゆる困難を乗り越え前向きになれる根拠はないけれども大きな自信となり、小池さんをいまも支えているのです。 しかし、必ずしもすべてが最初からうまくいっていたわけではなかったといいます。特に旦那さまとの関係については、まるで“ジェットコースターのよう”に、“想像しうるありとあらゆることがあった”そうですが、年月が経つにつれ、これ以上信頼できる人はないと思えるようになったとおっしゃっていました。

無理なく心地よい環境をつくる、心身を整える

小池さんは「無理せず」継続できることを、日々の学びにおいても、人間関係においても大切にされています。たとえば運動については、激しい運動をするのではなく、ウォーキングや気功などを毎日コツコツと続け心身を整えています。大切なのは、心と一体である体を動かすことであり、運動の量や激しさではないのです。人間関係については、全員と友達にならなくてもよい、全員に自分を知ってもらわなくてもいいのだと考え、ご自身を偽ったり無理するようなことはしません。

わくわくを探す

小池さんとお話をしていると、日々多彩なわくわくを感じていらっしゃることがわかりました。 水彩画や英会話などの学びにおいては、10年後など少し先に目標をおき、“恥をかかなきゃうまくならない”“他のひとのよいところを学ぶ姿勢を忘れない”ことをモットーに取り組まれており、新たな知識を得ることを楽しみながらコツコツと続けていらっしゃいました。 習い事や旅、ひいては日常での装いを通じて感じるわくわくは、新しい自分に出会う楽しみを連れてきてくれるのです。

ウェルビーイングを損ねる要素

小池さんは、心地よい環境・人間関係を阻害する可能性があることには近づかないように心がけています。その結果、いまは何にもご自身のウェルビーイングが阻害されず基本的に理想的な生活が送れているとおっしゃいます。 ただこのような状況で心行くままに旅に行けないこと、ネット通販利用で衣類の量が多くなってしまっていることは理想の状態と隔たりがあり、気持ちとしてマイナスとのことでした。

「ウェルビーイング」とは、 自分が自分でいられる、心地よい生活を送ること。 そのためにはサーフィンのように、嫌なことも 乗り越えていく術を身に着けることこそが、大切。

10年前&10年後におけるウェルビーイング要素の変遷

小池さんのウェルビーイング要素は、10年前と今で変わっていないそうですが、10年後を考えたときには大きく質が変わっていそうなことがわかりました。具体的には、これまでは、自分を中心として身近な関係やものを整え、自分のために学びを積み重ねていましたが、10年後は地元の神社の清掃など、地元に尽くしていきたい、それがウェルビーイングの要素になると考えているそうです。家族を中心にたくさんの愛を注いできた小池さんですが、愛を注ぐ対象がより広く、社会的になっていくのだと思われます。

このような心境の変化は、間近で地域を支えている人を目にしてきたことも大きなきっかけになっていると考えられますが、大人世代がそういった地域、社会で活動する人々と出会う機会自体も大切なのかもしれません。

小池さんのウェルビーイングの形について

1.ウェルビーイングは三重層:わたし・わたしたち・社会

『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために―その思想、実践、技術』によると、ウェルビーイングには大きく分けて3つのレイヤーがあると定義されています。一つ目は「わたし」視点で、確立された個人のウェルビーイングを満たすもの。欧米のウェルビーイングは主に「わたし」視点が中心的価値であることが特徴的です。次に「わたしたち」視点は人間同士の関係性の中で価値を作りあうウェルビーイングで、特に日本や東アジア人において特徴的です。3つめの「社会・公共性」は公共の場やコミュニティ単位でのウェルビーイングです*1。小池さんのウェルビーイングはこの3つのレイヤーのウェルビーイングが重層的に折り重なっていることが見えたケースです。「わたし」レイヤーにおいては自身の趣味を通じてわくわくを探求していたこと。「わたしたち」においては、主に家族との関係性を大切に築いておられることか彼女のウェルビーイングの礎になっていました。さらに将来においては地元に奉仕してご自身が住まうコミュニティに貢献したいとおっしゃっていたのが、最後のレイヤーである「社会」のウェルビーイングに関わっていくということなのだと思います。様々なレイヤーが重層的に織りなすウェルビーイングは、苦難や困難にも強いものになっているのでないでしょうか。

※1出典:『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために―その思想、実践、技術』渡邊淳司等編著

2.愛を注ぎ・育むことこそウェルビーイング

小池さんは趣味やお孫さん、犬や家にまで様々なものに多大なる愛情を注いでいたのも彼女のウェルビーイングにとって重要な視点だったかと思います。通常だと逆(愛されること)だと思いがちですが、人を愛すると「オキシトシン」というホルモンが増え、より豊かな人間関係が作れるのだそうです*2。好きなことや人を見つけられるか否かはウェルビーイングにおいては重要であることがわかりました。 ※2出典:『99.9%は幸せの達人』星渉、前野隆司著

3.回避的ウェルビーイング

愛を注ぐとは逆に聞こえるかもしれませんが、嫌なことを察知し、回避する術を学び実践されていたのも小池さんならではのウェルビーイングなのではと思いました。そもそもウェルビーイングとは、よりよい状態に自分と自分のまわりの環境を整備すること。「夫とのジェットコースターのような」体験で嫌な思いをし、そのような場面を察知する能力が養われたと話されていました。対応するに値しない嫌なことは回避するのもウェルビーイングを保つ有効な方法なのではないでしょうか。

取材協力:趣味人倶楽部:会員35万人・月間3000万PV、日本最大級のシニア向けコミュニティサービスです。定年退職や子育て卒業後、同世代と繋がったり、趣味を深めるために利用しています。オースタンス:オースタンスは、シニアDXを推進するスタートアップ企業です。 ITを活用し、中高年・シニア世代に、ポジティブな変化を生み出し、 エイジングエネルギー溢れる社会をつくっていきます。

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Well-being Matrix
Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。