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2023.08.07

関東大震災から100年。 地域の防災力と幸福度を高める、「共助」がつくる地域のウェルビーイングとは?

要約すると

  • 防災準備として多いのは、ハザードマップや避難経路の確認、食料品や日用品の備蓄。

  • 一方で、地域の方々やコミュニティで助け合う「共助」は、まだ浸透しきっていない。

  • 地域とのつながりや助け合いがある方は、幸福度も高い。

  • 「共助」は、地域の防災力を高めるだけでなく、よりウェルビーイングな地域づくりにもつながる。

はじめに 〜関東大震災から100年。「共助」がつくる地域の防災を考える〜

今からちょうど100年前の1923年。

相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9と推定される関東大地震が発生しました。

その被害は甚大で、死者・行方不明者数は10万人を超えたと言われています。

内閣府「関東大震災100年」特設ページ

また国土交通省によると、マグニチュード7程度の首都直下型地震の30年以内の発生確率は70%程度とされています。

(国土交通省 地震調査研究推進本部地震調査委員会、2020年1月24日時点)

近い将来いつか来うる災害に備え、防災に取り組む重要性が高まっています。

しかし、食料品や生活品を備蓄するだけが防災ではありません。

今回は、防災のひとつである、地域の人々とのつながりがつくる「共助」に着目し、共助がつくる地域の防災力とウェルビーイングについて考えてみたいと思います。

日本の防災の実態と「共助」について

まずは、日本の防災の実態について調べてみました。

どんな防災に取り組んでいるか?を調べてみたところ、最も多いのは「地域のハザードマップを確認すること」(40.2%)、ついで「避難場所や避難経路の確認」(39.5%)、「食料や飲料を備蓄すること」(37.8%)、「生活必需品を備蓄すること」(37.3%)でした。

【防災意識・取り組み実態】

一方で、「近隣住民といざというときに助け合えるように協力すること」「地域の防災訓練に参加すること」に取り組めている人はそれぞれ15.7%、15.4%しかおらず、地域の防災訓練については、4割の人が「やらなきゃいけないと思ったことがない」と回答しています。

こうして、災害時に近所・地域の人々で助け合うこと、また災害時に円滑に助け合いができるように日頃から地域での助け合いについて備えることを「共助」と呼びます。

(自分や家族で助ける・備えることは「自助」、行政や公的機関による取り組みは「公助」と呼ばれます。)

そして実は、この共助は、地域の防災力を高める上では非常に重要なのです。

内閣府の「防災白書(平成26年)」によると、阪神・淡路⼤震災で倒壊家屋の下から救出された方のうち約7割弱が家族を含む「自助」、約3割は隣人等の「共助」による救出であったことがわかっています。

(参考:「みんなでつくる地区防災計画 ~「自助」「共助」による地域の防災~」

しかし、先程のデータからも分かる通り、まだまだ日本の防災意識はハザードマップの確認や備蓄などの「自助」にとどまっており、「共助」への意識は高くないようです。

そんな、日本の防災力を高めるポテンシャルを秘めている「共助」について、もう少し深く見ていくことにしましょう。

地域との交流・つながりの実態

避難訓練や、助け合いに向けた具体的な協力はしていなくとも、近所・地域の方々と挨拶をしたり名前を知っていたりする方は多いのではないでしょうか?

実際、近隣住民との方とのつながりや交流について調べてみると、約8割の方は、近隣住民との方と挨拶をする程度の交流はあり、2割の方は一緒に町内会・自治体の活動に参加することもあるようです。

【近隣住民との交流やつながり】

もう少し踏み込んで、地域の方々に助けられた、または助けてあげた経験があるか?も聞いたところ、

18%の人が「助けられたことがある」22%の人が「助けてあげたことがある」と回答しました。

【近隣住民に助けられた・助けてあげた経験】

具体的な内容を聞いてみると、下記のようなものがあがってきました。

  • 家の前で原付バイクと事故をしたときに一緒に対応してくれた。(20代男性)

  • 近くの川が増水した時、避難所まで車で送ってくれた。(30代男性)

  • 妊娠中で体調悪いとき子供の学校のお迎えに行ってくれたことがある。(30代女性)

  • 除雪の協力、車が雪道で埋まった時に助けてくれた。(40代女性)

  • 自宅の近くで転倒した方を助けた。救急車を呼んで転倒した方の家族に知らせ病院まで付き添った。(40代男性)

  • 側溝にはまったおじいちゃんを、引っ張り上げたことがある。(50代男性)

  • 私がコロナに罹患したときに、買い物や食事の差し入れなどをしてもらった。(60代女性)

  • 近所のおばちゃんがパジャマのままで歩いていたので家に連れて行ってあげました。(80代女性)

川の増水や大雪といった天災から、転倒や事故などの日常での困りごとまで、様々な場面での助け合いが見られました。いざというときに助け合える共助の環境をつくるためにも、「いつか」だけでなく「いつも」助け合える関係をつくっておくのが大事なのかもしれません。

地域のつながりは、防災力だけでなく幸福度も高める?

また、さらに分析を進めていくと、こうして助けられた・助けてあげた経験のある方は、そうでない方に比べて「この街に住んでいて幸せだと思う」と感じる人の割合が19.7ポイントも高まることがわかりました。

地域の方々と良好な関係やコミュニティを築けていると、その街への愛着も湧きやすいようです。

【「この街に住んでいて幸せだと思う」人の割合】

また、生活における満足度を調べてみると、助けられた・助けてあげた経験のある方は、「人や社会とのつながり」に満足しているだけでなく、「身体の健康」「心の健康」の満足度まで高いことがわかりました。

【生活における満足度】

WHOによると、「ウェルビーイング」とは肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態のことを言います。

つまり、共助の関係を築くことは、地域の防災力を高めるだけでなく、地域のウェルビーイングを向上させる大きな可能性があるということなのです。

さらに、「人生100年時代において、あなたは100歳まで生きたいと思いますか?」と聞いてみたところ、助けられた・助けた経験のある人では35.6%が「100歳まで生きたい」と答え、そうでない方に比べて10.0ポイント高い結果になりました。地域とのつながりができていること、いざというときに助け合える人がいる心強さや安心感が、人生100年時代を前向きに生きようとする活力につながっているのかもしれません。

【100歳まで生きたい人の割合】

おわりに 〜人生100年時代の、共助でめぐるウェルビーイング〜

近隣住民との助け合いの経験がある方に、その経験を通してどんなことを感じたかを聞いてみました。

  • 素直に嬉しかった。赤の他人にここまでしてくれてとても良い人達だなと思った。(20代男性)

  • 今の時代、ネットでの買い物等でも何とかなるが近所の人と物資を融通しあうことも心の安定には必要かもしれないと思った。(30代男性)

  • 日頃から他愛もない話でもしておくと、顔見知りになったり、子どもの名前も覚えてくれて、嬉しいし困った時に助けてもらえて良い。(30代女性)

  • あまり付き合いのない近所ですが、困った時は声をかけてくれるんだなと感動した。顔を合わせれば挨拶程度の関係性なのに。人間の温かさを感じた。(40代女性)

  • 遠くの親戚よりも、近くの他人というけれど、やはり身近に信頼出来る人は必要だと思った。(60代女性)

  • 他人を助けたことが、まわりまわって自分の為になっていると感じることが多くなった。(70代男性)

単純に助けて・助けられて良かったというだけでなく、地域の方々の優しさに触れることで、人とのつながり・あたたかさを感じている人が多いようです。

また、日頃のつながりや助け合いが、めぐりめぐって自分に還ってくることを感じている方もいらっしゃいました。

現代社会では、昔に比べて地域の方々とのつながりが薄くなり、コロナ禍を経てその人間関係はさらに希薄になったように思われます。

そんな中、こうした地域の方々とのつながり・交流を積極的に行うことは、地域の、そして自分自身のウェルビーイングを向上させることにつながるのかもしれません。

今年は、関東大震災から100年。

1年に1回、防災バッグや避難経路を見直すことももちろん大事ですが、日頃から地域のつながりをつくっておくことで、防災力と幸福度を高めることができそうです。

人生100年時代、長生きできるようになったからこそ、リスクに備える重要性も高まっています。

まずは、日々の挨拶から、始めてみませんか?

「いつも」の小さな心がけが、「いつか」のときに、きっと大きな力となるはずです。

[100年生活者調査〜防災編〜]

■調査目的 :生活者の防災意識とウェルビーイングとの関係を把握する

■調査手法 :インターネットモニター調査

■調査日時 :2023年06月

■調査対象者 :20~80代の男女 728名 

■調査会社 :株式会社 H.M.マーケティングリサーチ

プロフィール
研究員
伊藤 幹
2017年博報堂入社。戦略を軸足に、コミュニケーション、事業共創、ソーシャルアクション立ち上げなど幅広い領域のプラニングに従事。ウェルビーイングをテーマに活動し、2022年に朝日新聞とともに「ウェルビーイング・アワード」を立ち上げ。一児の父として、育児と仕事の両立に奮闘中。