1950年代から開始された調査。
卒業写真で笑顔だった女子大生には負の感情に影響を受けにくい性質が見られた。
27歳、43歳、52歳と、追跡調査を行った結果、卒業写真で笑顔だった人はそうでない人と比べてどの年齢でも幸福度が高かった。
カリフォルニア大学バークレー校の心理学者レアン・ハーカーとダッチャー・ケルトナーが2001年に発表した論文「女子大学の卒業写真における笑顔と、それが成人期における性格および人生に与える影響(Expressions of positive emotion in women's college yearbook pictures and their relationship to personality and life outcomes across adulthood)」は、私立女子大学ミルズ・カレッジの上級生141人を対象に行われた30年にわたる追跡調査で回収されたデータと、表情分析システムを組み合わせて、卒業写真におけるポジティブな感情表現と生活の満足度にどのような関係があるかを分析したものです。被験者の女性は21歳、27歳、43歳、52歳それぞれの時点で、共通のアンケートに回答しました。
ハーカーらはまず、卒業写真とその時点での女子大生たちの特性に着目。分析の結果、卒業写真で笑顔だった女性は、他者への共感力が高く、思いやりがあり、社交的である(「ポジティブな感情表現は親和性と正の相関を示す」Harker& Keltner、2001)ことが明らかになったと言います。彼女たちには「満足感や上機嫌、他者への温情を経験しやすく」、ネガティブな感情に影響を受けにくい傾向もあったそうです。
このポジティブな感情表現(笑顔)と人格との関係は、その後の人生において(多少変化をしながら)も継続すると言います。ハーカーらによれば、21歳のときと同じく、27歳、43歳、52歳でも「ポジティブな感情表現がネガティブさと負の相関にある」(Harker& Keltner、2001)ことは変わりませんでした。一方で、歳を重ねるにつれ、他者への共感力、思いやり、社交性などは、卒業写真における笑顔との相関関係が弱まる傾向がありました。
またポジティブな感情表現とコンピテンス(編成能力、集中力、達成努力といった認知スキル)との関係は、「21歳では明らかではなかったが、27歳で現れ、43歳では安定し、52歳ではより強くなっていた」(Harker& Keltner、2001)。つまり、卒業写真で笑顔だった人は、後年になってコンピテンスが高まる傾向にあるということなのです。
研究では、より直接的にウェルビーイングと関わる結果も示されています。この論文では、どの年齢においても卒業写真でポジティブな感情表現をしている女性は、そうでない女性と比べて「幸福度が高い」(Harker& Keltner、2001)ことが報告されているのです。
しかしここで、人が写真を撮られるときに笑顔になる理由は「ポジティブな感情表現(をしがちな気質)」だけに限らないのではないか、という疑問が浮かんできます。容姿に自信があるから笑顔になりがちなのかもしれませんし、空気を読めるがゆえにカメラを向けられた際に笑っていたのかもしれません。そして、そうした「身体的魅力」や「社会的な望ましさ」こそが上記で述べられているような結果をもたらす要因ではないのか、と。
実はハーカーらも、それらの懸念を払拭すべく、個別の要因を分析することで、正しい因果関係を明らかにしています。「身体的魅力」と「社会的な望ましさ」がそれぞれ結果に及ぼす影響を測定し、それらを差し引いても「ポジティブな感情表現と調査した他の変数との関係には影響がなかった」(Harker& Keltner、2001)と結論づけているのです。
「女性にとってのポジティブな感情表現には、美しさ以上のものがあるのです」(Harker& Keltner、2001)
クレジット
引用論文:LeeAnne Harker, Dacher Keltner: Expressions of positive emotion in women's college yearbook pictures and their relationship to personality and life outcomes across adulthood(2001、https://doi.org/10.1037/0022-3514.80.1.112)
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