2023.09.25

ウェルビーイングにおける「自然との触れ合い効果」とは?

英国の研究チームによると週120分がボーダーラインか
自然に触れることが人々の健康や幸福に関連しているらしいことは、これまでのウェルビーイング研究からも、多くのことがわかってきています。でも、どれくらい自然に触れたらいいのでしょうか。たとえば英国の研究では、週120分以上自然の中で過ごすことでウェルビーイングの向上が見られることが明らかになったそうです。

要約すると

  • 週120分以上の「自然との触れ合い」で健康の実感と幸福度が上昇

  • 出かけた先で触れる自然なら何でもOK

  • 年齢・性別・社会的地位など関係なく「自然との触れ合い」効果は、みんな平等

週120分以上の「自然との触れ合い」で健康の実感と幸福度が上昇!? 

 今回紹介する英国の研究チームのマシュー・P・ホワイト、イアン・アルコックらは英国の成人(18歳以上)1万9806人に対して、「自然の中で過ごす1週間あたりの時間と、自己申告による健康と幸福との関係」(Whiteら、2019)を調査。被験者は「健康状態はどうですか?」という問いに対して、「非常に悪い」「悪い」「まあまあ」「良い」「とても良い」の5段階で評価。幸福度に関しては、「最近の生活は全体的にどの程度満足していますか?」などの問いに「0(まったく満足していない)」から「10(完ぺき)」の10段階で評価してもらうものでした。ちなみに「自然」は、自宅の庭は含まず、いわゆる出かけた先で触れる自然です。 

 その結果、週に120分以上自然の中で過ごした人は、「健康状態が良い」または「幸福度(生活満足度)が高い」と申告する傾向が強かったそうです。 

 人によっては“2時間(120分)も自然の中にいるのはなあ…”と感じるかもしれません。しかし、この調査では1週間の合計が120分を超えていればウェルビーイングの向上が見られたそうです。たとえば、樹木や草花のある公園を毎日20分散歩するのであれば、1週間で合計140分間。これなら今日からはじめられそうです。 

 重要なのは「自分の好みや状況に合わせて選択できること」 

 週末に長時間かけて、森でキャンプをしたりビーチでマリンスポーツを楽しんだりするのが好きな人もいれば、公園で定期的に短時間の散歩をするのが好きな人もいるはず。研究チームによると、週120分という時間をどのように達成したか、自然の中でどう過ごすかではなく「個人が自分の好みや状況に合わせて選択できること」(Whiteら、2019)が重要だとしています。たしかに“やらされている感”があると、楽しくありませんからね。 

 また、「自然に触れる」と聞くと、体を動かすアクティブな活動をイメージするかもしれませんが、そうとも限りません。自然に触れると、単に体を動かすだけでは得られない効果があることが別の研究からわかっていて、たとえば、森林浴に関する研究では「ただ座っているだけでさまざまな精神生理学的効果が得られることが示唆」(Whiteら、2019)されているそうです。 

 「自然と触れ合い」効果は、みんな平等 

 ウェルビーイングにおいては、「社会的地位が高い(低い)」、「所得が高い(低い)」、「よく運動する(しない)」という3点が重要だと言われてきました。しかしこの調査では、先の3点に加えて「住む地域(都市/地方)」、「性別(男性/女性)」、「年齢(65歳以上/未満)」、「健康状態(長期疾病や障がを持つ/持たない)」というクロス集計でも大きな違いはなく「単に健康な人がより頻繁に自然を訪れていたからではない」と分析しています(Whiteら、2019)。自然との触れ合いという点では、誰にでも効果があり、「公衆衛生への潜在的な影響という点で意味がある」(Whiteら、2019)としています。 

 また「健康の評価は週200分、幸福度の評価は週300分でピークに達し、それ以降は平坦化あるいは減少した」(Whiteら、2019)という結果も出ていて、ずっと自然の中で過ごすのがいいのかというと、そうでもなさそうです。何にでも“やり過ぎ注意”はありますね。 

「自然」であれば、何でもいいのか? 

 この調査では、植物や動物の種の豊富さといった「自然環境の質」は考慮しておらず“とりえあえず自然であれば何でもOK”でした。しかし別の研究結果では「生物多様性の高い環境では、より良い体験ができる可能性」(Whiteら、2019)を示すような見解もあるそう。また人々が自然と触れ合う行為は、「複雑な多感覚的体験だけでなく、個人の歴史や意味、長年の文化的慣習、場所の感覚など何らかの役割を果たしている」(Whiteら、2019)ため、自然を訪れる人にとっての関連性によっては、週120分以上過ごしたとしても同研究結果と同じ効果は得られないかもしれないそうです。 

久しぶりに帰省した実家の庭で120分過ごすのと、キャンプに出かけて自然に触れるのと、同じ効果は期待できないということでしょうか。 

 あまり難しいことは考えずに、身近な自然と触れ合ってみては? 

 研究チームは、自然との触れ合い効果を認めながらも、「自然環境の質はどうか」、「1回あたりには自然とどのくらいの接触時間が必要か」、「触れ合う自然の種類によって得られる効果が異なるのか」など、未知数な部分も多いと言います。具体的な指針が提示されるには、さらなる研究が必要かもしれません。それでも本研究は議論の重要な出発点にはなりそうです。 

 皆さんも今度の週末あたり、あまり難しいことは考えずに、身近な自然と触れ合ってみてはいかがでしょうか。 

 

 クレジット 

引用論文: 

Mathew P. White, Ian Alcock, James Grellier, Benedict W. Wheeler, Terry Hartig, Sara L. Warber, Angie Bone, Michael H. Depledge, Lora E. Fleming: Spending at least 120 minutes a week in nature is associated with good health and wellbeing(2019、https://doi.org/10.1038/s41598-019-44097-3) 

画像素材:PIXTA 

プロフィール
Well-being Matrix
Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。