2023.11.06

ヒトは社会的な動物だから、一緒に踊ってウェルビーイングになろう

オックスフォード大学が明らかにしたグループダンスの効果

要約すると

  • 社会的な動物であるヒトにとって、他者や社会との関係(結びつき)もウェルビーイングの構成要素。

  • 同じダンスを踊ったグループでは「社会的な結びつき」が生まれる。

  • グループダンスの効果に男女差がある。

「ウェルビーイング」という言葉をご存じでしょうか。ヒトが身体的、精神的、社会的に良い状態であることを意味する概念で、現代の幸福の代名詞になりつつあります。この「ウェルビーイング」には、個人的な価値観のみならず、他者や社会との関係も「幸せ」の構成要素として含まれていることがポイントです。 

ヒトは社会的な動物であり、家族・学校・会社などさまざまな社会的グループのなかで生活しています。そうだとすれば、他者や社会との「幸福な関係」なくして個人の幸せはありえません。では、他者とより良い関係を築くにはどうすればいいのか。もしかすると「一緒に踊ること」に、そのヒントが隠されているかもしれない、という研究がありました。 

■他者や社会との関係を好転させるダンス 

オックスフォード大学の心理学者ブロンウィン・ター、ジャック・ローネ、ロビン・ダンバーと同大学の人類学者エマ・コーエンが2015年に発表した「ダンスにおける同期性と運動量が、痛みの閾値と社会的な結びつきに与える影響(Synchrony and exertion during dance independently raise pain threshold and encourage social bonding)」はブラジルの高校生264名を対象にして行われた調査結果を分析した論文です。 

参加者は3人1グループになり、ランダムで4つの条件に割り当てられてダンスを踊りました。4つはそれぞれ 

(1)同じ音楽に合わせて全員で全身を使うダンスをするグループ 

(2)同じ音楽に合わせて3人がそれぞれ別の全身を使うダンスをするグループ 

(3)同じ音楽に合わせて全員で手だけを使うダンスをするグループ 

(4)同じ音楽に合わせて3人がそれぞれ別の手だけを使うダンスをするグループ 

つまり、「運動量の多い/少ない」という2条件と「同期性の高い/低い」の2条件を掛け合わせた4条件にグループ分けして比較されています。 

ダンスという営みがヒトの動きを同期させ、集団内のメンバーの社会的結束や協力を促していることは、人類学などの先行研究でも示されています。しかしそこから一歩進んで、どのようなメカニズムが働いているのか、その仕組みを解き明かそうとしたのがこの調査です。 

■全身ダンスと幸福感のメカニズム 

研究がまず明らかにしたのは、運動量と同期性を伴うダンスが痛みを感じにくくする(「痛みの閾値」を上昇させる)効果があるということ。「痛みの閾値」とは、モルヒネの数倍にもなる鎮痛効果があり、幸福感をもたらす神経伝達物質「エンドルフィン」の活性化を示す指標です。一般的に疲労や心配などのストレスがかかると、痛みを感じやすくなります(「痛みの閾値」が一時的に下がる)。 

運動量とダンスの同期性はそれぞれ個別に、この「痛みの閾値」に影響する効果をもっているのですが、運動量が低くても同期性さえ高ければ、痛みを感じにくくすることも判明しました。 

さらに、同期性は「社会的な結びつき」にも影響することがわかりました。 

■ダンスの運動量が影響するのは女性グループだけ? 

グループダンスの効果に男女差があることもわかりました。たとえば男性の場合、「痛みの感じにくさ」は同期性によって上昇しましたが、運動量の影響は見られませんでした。一方、女性では同期性と運動量のいずれも「痛みの感じにくさ」の上昇に寄与しており、「それらの相乗効果も認められた」(Tarrら、2015)。 

これは研究チームにとっても想定外の結果で、先行研究でも男女間の差異が報告されているものは見当たらなかったそうです。今回の調査で男女差(特に、同期性と運動量の相乗効果)が出たことに対して、ターらは「今後の研究で、体力、月経周期の段階、男女混合のグループかどうかという要因などをコントロール」しながら、追加で調査する必要があると述べています(Tarrら、2015)。 

この研究は、これまでメカニズムが解明されていなかった集団ダンス後の「社会的な結びつき」と「痛みの感じにくさ」の向上に、同期性と運動量が関係していることを解明することに成功しました。 

利他的で社会的にもウェルビーイングな状態でいるために、全身に負荷のかかるダンスを一緒に踊ることは、その最初の一歩になりそうです。 

クレジット 

引用論文: 

Bronwyn Tarr, Jacques Launay, Robin Dunbar, Emma Cohen: Synchrony and exertion during dance independently raise pain threshold and encourage social bonding(2015、https://doi.org/10.1098/rsbl.2015.0767) 

画像素材:PIXTA 

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