2023.09.07

野菜を育てて幸せに。「なんとなく幸せ」を感じられるガーデニングの魅力

観賞用の植物より野菜のほうが、幸福度が高いという不思議
身体的・精神的・社会的な視点から「幸福感」や「豊かさ」を考えるウェルビーイング。フィットネスやランニングなどの運動も、身体的な健康だけでなく「気が晴れた」などの精神的な影響もある点では、個人のウェルビーイングを高めるアクティビティとのひとつと考えられています。

今回着目したのは、ガーデニング。植物を育てることは、心の豊かさにどのように影響を与えるのでしょう。米国の調査研究で、ガーデニングが「感情の幸福度(エモーショナル・ウェルビーイング)」を高めていることが明らかになったという話をご紹介します。

要約すると

  • ガーデニングは幸福度も充足度も平均点の高いアクティビティ

  • 幸福度という視点では、観賞用の植物よりも野菜

  • 女性や低所得者のほうがガーデニングによる幸福度を感じやすい

日常的なアクティビティと比べて、ガーデニングはどの程度「幸福度」に影響を与えるのか

プリンストン大学をはじめとした複数大学による共同研究機関「Sustainable Healthy Cities Network」に在籍する4名の研究者グラハム・アンブローズ、クレタ・ダス、インリン・ファン、アヌー・ラーマスワミがまとめた調査研究(※)はアメリカ・ミネソタ州のミネアポリスとセントポールという2つの都市の住人を対象に、ガーデニングを含む15種類の日常的なアクティビティを行なっている際の「感情の幸福度」を計測し、他のアクティビティと比較して、ガーデニングが幸福度に与える影響を分析しています。

なお、15のアクティビティは以下です。

・レジャー・レクリエーション

・外食

・サイクリング

・ガーデニング

・ウォーキング

・ドライブ

・買い物

・家で過ごす

・個人的な用事

・勉強

・仕事

・電車に乗る

・待ち時間

・バスに乗る ・その他

※ 2020年「園芸は都市生活者の幸福度向上と関係するか? 隣接する米二都市における多様な活動とそのダイナミック・アセスメント(Is gardening associated with greater happiness of urban residents? A multi-activity, dynamic assessment in the Twin-Cities region, USA)」。2016年から1年間、アメリカ・ミネソタ州で実施された大規模調査「近隣環境および日常のアクティビティ、ウェルビーイングの研究」で得られたデータを分析したもの

ガーデニングは「なんだか幸せ」なアクティビティだった

上図 他の分野・アクティビティとの比較におけるガーデニングの「感情の幸福度」値(Ambroseら、2020)

A) Net Affect(総合的な効果の平均)

B) Average Happiness(幸福度の平均)

C) Frequency of Experiencing Peak Happiness(幸福度のピークを体験する頻度)

D) Average Meaningfulness(充足感の平均)

E) Frequency of Experiencing Peak Meaningfulness(充足感のピークを体験する頻度)

結果を見るとガーデニングは総合的に、ウェルビーイングと相性のいいアクティビティであることがわかります。またA)、B)、D)の3つで上位5に入り、買い物やバスや電車に乗って移動することよりも「幸福度」が高いという結果になりました。

注目したいのは、B)幸福度の平均とC)そのピークの頻度の差、D)充足感の平均とE)そのピークの頻度の差です。C)、E)で一番高い数値を示しているレジャー・レクリエーションとの対比で見ると、ガーデニングはC)、E)ともに高くないものの、B)、D)では、どちらも順位を上げています。

つまり、ガーデニングは「ものすごく幸せ」という瞬間はそこまで多くはないけれど、トータルで見れば「なんだか幸せ」に感じられるアクティビティということを示しています。

ガーデニングをするなら「野菜」を育てるほうが幸せになる!?

ガーデニングの中でも、野菜を栽培している人としていない人を比べると、野菜を栽培している人のほうが、サイクリング、外食、ウォーキング、レジャー・レクリエーションにおける正味の幸福度が高いという結果も出たそうです。

このことから観賞用の植物を育てるよりも、野菜を育てたほうがより高い幸福度を経験できる可能性があり、研究チームでは「食べ物を生産することや、より大きなアイデンティティ(たとえば自分が食べる物を生産することに関するアイデンティティ)とのつながりを維持することの重要性が、野菜を栽培する園芸家の幸福度の高さに関わっているのかもしれない」(Ambroseら、2020)としています。

女性と低所得者をより幸せにするガーデニングの特性

ガーデニングは、自宅以外では自治会や地域コミュニティが運営する共有スペースで草木や野菜、花を育てるケースもあります。こうした地域のガーデニングは、都市計画やコミュニティデザインの領域でもコミュニティの結びつきを育む重要な場として、しばしば言及されています。

しかしこの研究では、一人でもコミュニティと共同でも「感情の幸福度」に差はない、という結果になったそうです。

さらにクロス集計を行ったところ、15のアクティビティのうち、男性よりも女性、中・高所得者よりも低所得者のほうが、「感情の幸福度」が高い結果になったのはガーデニングのみ。ガーデニングの特徴が際立つ結果となっています。

街のウェルビーイングを向上させるために

この調査研究の結果から、より住みやすく、より公平な都市づくりを考えるのであれば、自転車専用レーンや歩道の充実といったインフラ整備とあわせて、ガーデニングへの投資を検討するべきだと研究チームは提言しています。

実際に、自家菜園プログラムに参加した低所得者の健康、食習慣、新鮮な農産物へのアクセスの改善・向上が報告されたという別の調査結果(Sickler、2018)もあるほど。今回の論文のもととなった大規模調査に参加したガーデニング人口の割合(30%)が自転車に乗っている人の割合(18%)より高かったこと、それにもかかわらず「都市計画担当者のあいだで自転車プログラムのほうがはるかに注目」(Ambroseら、2020)されてきたことは、たしかにアンバランスと言えそうです。

個人のウェルビーイングと街のウェルビーイング。その改善を目指すうえで、これまであまり注目されてこなかったガーデニングは、とんだ“ダークホース”になるのかもしれません。

クレジット

引用論文:

Graham Ambrose, Kirti Das, Yingling Fan, Anu Ramaswami: Is gardening associated with greater happiness of urban residents? A multi-activity, dynamic assessment in the Twin-Cities region, USA(2020、https://doi.org/10.1016/j.landurbplan.2020.103776)

画像素材:PIXTA

プロフィール
Well-being Matrix
Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。