NHK『まいにち 養老先生、ときどき まる』でおなじみだった解剖学者・養老孟司氏と愛猫のフォトエッセイ。
ペットの死は悲しみだけではなく、大切な死生観や気づきをもたらしてくれる。
NHK『まいにち 養老先生、ときどき まる』でもおなじみの養老氏とまる。番組ディレクターとの打ち合わせに何度も乱入したまるを見て、養老氏が「いっそ、こいつを撮ってよ」と言ったことをきっかけに同番組がスタートし、大人気シリーズとなりました。
養老氏は「図らずも、飼い主が戸惑うくらいの人気者になってしまったが、当然ながら、まる自身はどこ吹く風。いつも『そんなこと、知るか』という顔をしていた」と当時を振り返ります。
そんななか、養老氏は2020年に心筋梗塞の手術のために入院。そして退院後は「入れ替わるように、まるの心臓が悪くなった」のだそうです。
「『きっと養老さんの不調を、まるが引き受けてくれたんですよ』。知人の何人かに、そう言われた。そんなことが実際にあるのかどうか、分からない。ただ私が、まるから多くのものをもらったことは、紛れもない事実である」
2020年12月21日、まるは拘束型心筋症からくる心不全でこの世を去りました。人間の年齢でいえば約90歳の大往生だったそうです。養老氏とまるの18年間はこうして幕を閉じました。
猫は、飼い主に死に際を見せないように姿をくらますと言われています。その通説どおり、まるは死ぬ直前にどこかへ行こうとしていたようで、養老氏が以前に飼っていた“チロ”という名の猫も同じような行動をとっていたのだそうです。
これについて養老氏は「単に体調不良の苦しさから逃れるため、どこかへ行こうとしただけなのに、人間の目には意味があるように見えているだけかもしれない」と記します。
そもそも動物は人間のように死について考えることはないとされています。養老氏も「まるは最後まで自分が死ぬことを考えなかったと思う。なぜならそれは、まるの世界ではないからである」としています。そして、そんなまるを養老氏は「『お前のようになれたらなあ』と思って見ていた」といいます。
死を想うこと自体は悪いことではありません。むしろ人間の特権ともいえるかもしれません。その一方で、現代は死が過剰なまでに遠ざけられていると養老氏は指摘します。生き物にとって死は当たり前にやってくるもの。それなのに、「昔の人の意識にごく自然に備わっていた死に対するある種の諦念が希薄となり、生への期待が極端なまでに高まっていった」、その延長線上にあるのが「ペットロス」なのではないかと分析します。
それでも、まるがいなくなって1年経っても、つい、まるを探してしまうという養老氏。ペットの死は深い悲しみをもたらします。しかし養老氏は、まるの死を悲しんではいるものの、それ以上にまるがくれたものを慈しんでいる姿が非常に印象的で、それが書名にも表れています。養老氏とまるの姿から、ペットとともに生きるとはどういうことかを改めて考えてみてはいかがでしょうか。
クレジット
『まる ありがとう』
養老孟司 著
西日本出版社
1,320円(税込)