2024.04.01

SNSの炎上から考えるWell-being 承認欲求との上手な向き合い方とは

SNSは、いまや生活に欠かせない存在となっています。SNSを通じて、承認欲求を満たすことができれば、Well-beingの向上が期待できる反面、一歩間違えると、自身の投稿が炎上してしまうほか、炎上の“火付け役”になる可能性もあります。

ネットニュースの記者や編集者として、SNS上での「バズり」から「炎上」まで、あらゆる事案を見てきた「ネットメディア研究家」の城戸譲さんは、「SNSは使い方次第で毒にも薬にもなる」と主張します。

今回は、SNSによって満たされる欲求や、なかなか気付きにくい落とし穴について、語っていただきました。

いいねで満たされる承認欲求

ふとした風景や手料理の写真、日常を切り取ったエピソードなどをSNS投稿したとき、誰かから「いいね」がついて、自己肯定感が高まった経験はないでしょうか。ときには、知人や友人だけでなく、見ず知らずの匿名アカウントからでも、いいねされるとウキウキします。

「承認欲求」とは、肯定的な評価をされることで、価値ある存在と認めてほしいといった欲求を指します。ワンタッチで評価を得られるSNSの登場で、こうした欲求は簡単に満たせるようになりました。

周りから認められたいという思いは、誰しも持っていることでしょう。そこには、能力やセンスを認められたいといった感情だけでなく、ただ単に「チヤホヤされたい」という欲望もあるはず。生活水準がそれなりに安定しているなか、日常を彩るスパイスとして、さらに承認欲求を求める現代人も多いように感じます。

しかし、安易に承認欲求に身を任せることはおすすめしません。いいねの裏側に、どんな感情があるか考えたことはありますか? 決して疑心暗鬼になれ、と言っているのではありません。SNS上の評価をすぐさま額面通りに受け入れてしまうのは、注意が必要なのです。

いいね=全肯定とは限らない

その「いいね」に込められた意味は何か。皮肉のようなマイナス評価でないにせよ、投稿を見た証として、しおり感覚でいいねされたり、あなたとの関係性を良くしたいがための「忖度いいね」だったり……といった可能性もあります。必ずしも、あなたの投稿や、日頃からのライフスタイルを全肯定しているとは限らないのです。

もし投稿者自身の認識が、いいねを付けた人とズレてしまうと、トラブルにも発展しかねません。世間とのギャップに気付かず、「みんなが求めている」と錯覚しながら、さらなる「いいね稼ぎ」に走ってしまえば、投稿がエスカレートして、炎上につながる危険性もあります。

炎上と聞いても、自分には関係ないと感じる読者も多いでしょう。しかし実は、意外と身近に存在しています。いくつか例を挙げながら、どのようなケースに巻き込まれる可能性があるか考えてみましょう。

【炎上事例1】外食チェーンでの迷惑行為

ネット空間のみならず、広く社会問題に発展したパターンとして、外食チェーン店などでの「迷惑客テロ」は、みなさんも記憶に新しいでしょう。

回転すし店で醤油ボトルをなめたり、他人の注文した商品にわさびを塗ったりする動画が拡散。衛生面で非難があがり、カレー店やうどん店などでも、付け合わせの共有容器に直接はしを突っ込むなどの迷惑行為が起きて、炎上が発生しました。

一連の背景には、先ほどあげた「世間とのギャップ」が考えられます。おそらく投稿者たちは、一般ユーザーから広く、いいねを得たかったのではなく、親しい相手からの内輪ウケを狙ったのでしょう。いわゆる「武勇伝」に近いイメージです。

常識外れな行動をすることで、少しでも目立ちたい。承認欲求を満たしたいがために、衝動的に行動し、勢いのままに投稿してしまった結果、客観的に「迷惑行為」とみなされる事案は後を絶ちません。

しかし、所属するコミュニティ内では当たり前の価値観が、世間一般でも通用するとは限りません。倫理的・法的に問題がある可能性もあります。結果として、一時的に「仲間」からの承認欲求は満たされたかもしれませんが、その代償を大きく払うことになりました。

振り返れば、10年ほど前にも、コンビニ従業員が店内のアイスケースに入るといった「バイトテロ」が問題視されました。同じ構図での炎上が繰り返される要因には、世代間のノウハウ共有不足に加えて、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」といった認識の甘さもあるでしょう。

【炎上事例2】テーマパークでの「露出度の高い服装」

続いて紹介するのは、有名なテーマパークで起きた事案です。とある女性たちがコスプレと称してSNSに投稿した写真が、「肌の露出が多すぎる」「子連れ客もいる場所にふさわしくない服装だ」などと批判が相次ぎ、最終的にテーマパーク側が「退場いただく場合がある」と公式声明を発表するまでに発展しました。

自らの発信だけでなく、「第三者による転載」にも意識を

昨今のSNS利用では、常に「第三者による転載」を意識する必要があります。SNS上で影響力のあるインフルエンサーの中には、自らコンテンツを生み出すのではなく、情報の中継地点としての役割を担うことで、存在感を発揮するアカウントもあります。

当初の投稿は、おそらく「チヤホヤされたい」といったシンプルな動機が、背景にあったのでしょう。しかし投稿への反応までは、予想できなかった。そこへ来て、中継地点を担うアカウントが二次利用していく。実は、彼らもまた、「情報通として認められたい」との思いが、原動力になっています。承認欲求を満たしながら、影響力を高めることで、収益増も見込めるのです。

SNSによって受け取られ方が異なる

このケースでは、各SNSによるカラーの違いもポイントとなります。この写真はInstagram上では当初、比較的好感を持って受け取られていたようですが、第三者がX(旧Twitter)に転載した際に炎上してしまいました。

ひとたびスクリーンショットで転載されてしまえば、自分が投稿していないSNSにも拡散され、炎上に巻き込まれる可能性があります。「鍵アカ」と呼ばれる、一般には非公開設定のアカウントも、例外ではありません。

「このSNSだったら大丈夫」と気を緩めず、どのSNSに転載されてもよいような心がけが、ときには重要になるのです。

【炎上事例3】育児ブログへの「理不尽なバッシング」

ここまでの例は、投稿者自らが炎上するパターンでしたが、ある意味、「とばっちり」のような形で炎上が起きてしまう例もあります。火のないところにも煙が立つのが、ネットの怖さなのかもしれません。

「ママタレント」として知られる元アイドルのブログは、この理由でしばしば炎上を経験しています。例えば、家族でイチゴ狩りへ行った写真を投稿すると、「練乳をかけるな[高広1] 」などと非難が殺到します。[高広2] はたから見ても、理不尽としか言えないコメントが多く見られました。

SNS上では、ストレスを発散したいがために、相手をたたくケースは珍しくありません。批判コメントを書き込んだ人々は、最初は「子どもがかわいそう」との正義感からだったのかもしれません。

しかし、コメント欄に賛同者が増えるにつれ、非難の表現は、質・量ともにエスカレートしていきます。そして、どこかのタイミングで「どれだけ攻撃しても問題ない人物」として認定されてしまうのです。

このケースにおいても、承認欲求は無関係ではありません。コメント欄に自分と近い考えを見つける。もしくは自分が書いたコメントに、同調する人が増えていく。そうした繰り返しによって、自らの意見が認められていると、より強く感じるのです。

少し冷静になれば、「有名税」にも限度があると気づけるはずですが、匿名ユーザーによる集団心理は、ときに暴走を招きます。このタレントは、いまやテレビ番組で炎上エピソードを話すなど、パフォーマンスとして昇華できていますが、なかには人知れず悩み苦しんでいる人も少なくないでしょう。

客観的視点で「世間とのギャップ」を埋める

ここまで3つの例を見てきましたが、いずれの背景にも「自分の行動や価値観を認めてほしい」といった思惑が見受けられます。承認欲求におどらされないために、個人レベルでできる対策は何なのでしょう。

まずは、自分と世間とのギャップを、なるべく埋めることが考えられます。一度立ち止まって、「受け手はどう考えるか」と、思いをめぐらせるだけでも、見える景色は変わってきます。賛同を得られない可能性があるとしたら、どんな理由が予想されるか。それでもなお、投稿すべき大義名分があるか……など、客観的に見るのがオススメです。

自らが燃えるのではなく、育児ブログの事例のように「火に油を注ぐ」ケースも同様に、「延焼した場合、どのような事態が起こりうるのだろう」と想像するのがよいでしょう。

炎上が加速する要素としては、匿名の立場からであれば批判しやすい、という点もあります。ネガティブな印象を残す内容であれば、「実名でも投稿できるか」「面と向かって言えるか」を判断基準にするのも一考です。

立ち止まって、自分の考えと向き合おう

ひとたび炎上に巻き込まれてしまうと、精神面の負担のみならず、名誉毀損など法的責任を負う可能性もあります。いざという時のために、できる限りの策を用意しておいて、損はないでしょう。ほとんどは「いったん立ち止まって、深呼吸する」だけで予防できるはずです。

SNSの登場によって、リアルな人間関係に加えて、見ず知らずの匿名相手とも、日々コミュニケーションを行う「相互承認の社会」になりました。とはいえインターネットは、あくまでツールです。こちらが活用するもので、利用されてはいけません。

ネットの投稿に一喜一憂して、刹那的な承認欲求を追いかけても、つい足を踏み外してしまい、人間性そのものを問われてしまえば、元も子もありません。

自分の承認欲求を押しつけることで、ネットの向こう側で、どのように受け止められるのか。誰かの承認欲求と対立して、時には相手、もしくは自分がイヤな思いをすることもあるでしょう。

自分を評価してもらうことは、誰かの価値観を認めるのと表裏一体です。いつでも、どこでも、誰とでもつながれる時代だからこそ、「自分の考え」と向き合う時間をつくることが、SNS時代のウェルビーイングな生き方への第一歩となるでしょう。

(執筆:城戸譲/編集:ノオト)

プロフィール
Well-being Matrix
Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。