2024.01.22

アナウンサーからフラワーアーティストへ 前田有紀さんに聞く「好きなことを仕事にすること」とウェルビーイング

「好きなことを仕事にしたい」という想いは、誰しも持っているのではないでしょうか。アナウンサーから、フラワーアーティストへ転身した前田有紀さんも、その一人。

好きなことを仕事にするには、どんな考えが必要でしょうか。そして、前田さんにとってのウェルビーングとは? 「毎日仕事をするのが楽しい」と語る前田さんに、仕事とウェルビーイングの関係について聞きました。

「好きなことを仕事にしたい」 花へのワクワクがウェルビーイングの種に

アナウンサーとしてテレビ朝日に就職した前田さん。仕事に慣れて視野が広がった5年目頃に、仕事の価値観が変化したそうです。

「スポーツ選手にインタビューをする機会が多く、その際はいつも『好きなことを仕事にしている人たちは、目が本当に輝いているな』と感じました。次第に、自分も好きなことを仕事にしたら、どんな人生になるのだろうと考え始めたんです」

自分の「好き」が何かを模索するようになった前田さんが行き着いたのは、でした。

「東京のど真ん中にある会社と自宅を行き来する日々のなか、ふと花を買ってみたんです。それを飾るだけで部屋が明るくなり、まるで世界が違って見えました。最初は飾るのを楽しんでいただけだったのに、次は『花を習いに行きたい』に変わり、いざ習いに行ってみると教える側として『花を仕事にする側になってみたい』と思うようになりました」

花の仕事への憧れが日に日に増しながらも、「社会のレールから外れて大丈夫なのか」「このまま会社にいたほうが安心なのではないか」と、常に迷いはあったそうです。それでも一歩踏み出せたのは、こんな考えがあったからだとか。

「今の延長線で人生が続いていくと考えたら、『こうなりたい!』と思う未来像が見出せなかったんです。でも、それが花の仕事だったら……と考えたら、自然とワクワクしている自分がいました」

主体的に動くことが、自分らしさを発揮するコツ

テレビ局を退社した前田さんは、イギリスのコッツウォルズで園芸を学び、帰国後は花屋「ブリキのジョーロ」に就職。アナウンサー時代と同じくらいハードワークながら、やりたいことを仕事にするスキルを磨いているという充足感があり、モチベーションが途切れることはなかったそうです。

修行期間を3年経て独立した現在は、2018年にオリジナルフラワーブランド「gui(グイ)」の立ち上げ、2021年にフラワーショップ「NUR(ヌア)」のオープンを実現しました。「好き」を仕事にするために大事なことは何なのでしょうか。

「とにかく主体的になることですね。アナウンサー時代は、まずは与えられたことをやろうと受動的に仕事を進めていたので、自分らしさを発揮する場はそこまで多くありませんでした。しかし、今は全てが自分次第。一緒にお仕事したい人に会いに行ったり、生産現場に直接足を運んだりと、自発的に動き回っています」

仕事に対するモチベーションの波はなく、「今日はこれができる!」といつもワクワクしているそうです。それでも、現在2人の子育てをしているため、仕事に割ける時間が限られていて葛藤もあるとのこと。

「やっぱり無理しないのが大切。第一優先は、今の自分のコンディションがどうなのか。それをしっかりと見つめながら、その日のベストを尽くすようにしています」

好きなことを仕事にしていても、苦手な作業が発生する可能性はあります。前田さんは事務作業が得意ではないそうですが、その分野で力を発揮できる仲間に委ねていくことで解決してきたのだとか。

「以前は、自分で抱えなきゃという気持ちが強かったんです。ですが、今はやりたいことがたくさんあって時間も限られている中で、最大限いいものをアウトプットするために、公私ともにいろんな人の力を借りることを大事にしていますね」

農家さんとのつながりをきっかけに、フラワーロスの活動も開始。装飾に使用したものや、販売用としては鮮度が過ぎてしまった花を、児童養護施設や子育て支援施設に寄付している(写真提供:前田有紀さん)

ウェルビーイングを模索するため「好き」との最適な距離感を測る

2022年9月、前田さんは「自分らしく好きをカタチにする」をコンセプトに「好きを仕事に研究会」を立ち上げました。異色な転身を遂げたことで、以前より起業について相談される機会が増えたため、「もっと自分の体験談を共有できたら、良き人生の参考になる人がいるのではないか」と考えたのが設立のきっかけです。

この研究会に参加しているのは、ライフステージが変わりやすい20代後半から30代、40代の人々。長く同じ会社に勤めながらライフスタイルの変化を望む人、すでに個人事業主として仕事しながらも事業の方向性をもう一度見直したい人など、さまざまなフェーズの研究員が人生のウェルビーイングを模索しています。

「忙しい生活で子どもや家のことを優先するあまり、自分の人生のことを考えるのを後回しにしていたという方も多くいらっしゃるので、授業では自己分析の時間をしつこく設けるようにしています。みんな自分自身のことなのに、意外と知らないことが多いんですよ。まずは、自分が人生の主体になっていることを思い出してもらえたら」

起業時には右も左もわからず心細かったという前田さん。「好きを仕事に研究会」では起業の際どんな出来事があるのかを共有する機会があるのだとか(写真提供:前田有紀さん)

研究会では、自分の「好き」を見つける人もいれば、あらためて「好き」を見直す人もいます。前田さん自身は大胆な転換をしましたが、好きなこととの距離感をどうアドバイスをしているのでしょうか。

「全員に『じゃあ、起業しましょう!』と言いたいわけではありません。その人に合った『好き』との距離感があると思うので、やっぱり自分がどうしたいかが大切です。そうでないと、いざ『好き』を仕事にしてみたものの、うまくマッチせず逆に苦しくなってしまうこともありますから」

自分をしっかりと見つめること。それが「好き」との距離感の測り方につながるのではないか。今の時代は一人の人がさまざまな肩書きを持つ「スラッシュキャリア」を築くのが重要ではないかと前田さんは考えます。

「たとえば、週末だけ興味のある内容のイベントに参加してみる、ワークショップを開いてみるなど、さまざまな方法があります。まずは、小さなステップから『好き』との距離を縮めてみてもいいのではないでしょうか」

自分らしく力を発揮することがウェルビーイングにつながる

見事な転身を果たし、好きなことを仕事にすることを実現した前田さん。ご自身にとって、ウェルビーイングとは何なのでしょうか。

「自分も周りも心地よくいられることです。アナウンサーだった頃は、組織の中で力を発揮することが全てだと捉えていましたが、今は自分の置かれている状況と環境の中で自分らしく力を発揮することが大切かなと思っています」

暮らしがあって、その中に仕事がある。暮らしと仕事は分けず、両方が大事だと思えるようになったと前田さんは笑顔を見せます。

「住まいが鎌倉にあるので、山の風景だったり、道端に咲いている花だったり、暮らしの中で得られる癒やしが至るところにあります。少し行けば、海もありますしね。自然の美しいシーンを目にする機会が多くあって、それがちょっとしたインプットにもなっているんです。仕事はどうしても時間に制約があるので、追われている気分になりやすいのですが、自宅周りの風景を見渡すと、ゆったりと時間が流れているので、とてもいいメリハリになっています。仕事だけだと思いつかないアイデアも、自然の世界に転がっていたりするんですよ」

<プロフィール>

フラワーアーティスト 前田有紀

10年間テレビ局に勤務後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働き、帰国後は都内のフラワーショップで修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近に」という思いから、さまざまな空間での花のあり方を提案。2018年にフラワーブランド「gui(グイ)」を立ち上げ、2021年4月に神宮前でフラワーショップ「NUR(ヌア)」をオープンした。

(執筆:矢内あや/撮影:小野奈那子/編集:ノオト)

プロフィール
Well-being Matrix
Well-being Matrix編集部
人生100年時代の"しあわせのヒント"を発信する編集部。